ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「恋は盲目とは言ったものね」

 エミリーが改めて雑誌を広げて置いた。

 慎太郎の顔にモザイクがかけられているが、あまり意味をなさない。キスの写真まで撮られて恥ずかしい一方、よく撮れてもいて。なにより私は幸せそうだ。

「彼が好き?」

「えぇ、多分。エミリーの言う通り、恋愛をしてこなかったから。この気持ちが恋なのか、はっきり分からないけど」

 どんな花を咲かせるんだろう、慎太郎が心に蒔いてくれた種を大切に育みたいと思う。

「水を差す事を言っても?」

「えぇ、どうぞ」

「真田慎太郎は伊集院家と繋がってる」

「お見合い相手として両親が選んだのだし、面識があって連絡くらいするんじゃない? 彼と両親の個人的なやりとりを制限するつもりはない」

「あなたのご両親は騒動に便乗して、ドクターとの結婚を押し切るつもりよ。ドクターも伊集院に自身のスキャンダルの揉み消しと、資金援助を申し出るみたい」

「まさか! そんな!」

 私は肩を竦め、足元に転がっていた麦茶を拾って飲もうとする。
 ーーが、指先に力が入らず、なかなか開けられずにいたらエミリーが簡単に回す。

「どうやら伊集院夫妻がドクターと会うらしい。ツインタワー内にある会員制のラウンジでね」

 部屋には私達しか居ないのに耳打ちした。エミリーがいつも纏う香水がやけに鼻につく。

「どうしてエミリーがそんな情報を掴んでる訳? その方が怪しい」

「あらあら、付き合い始めたばかりの恋人を信じて、数年連れ立ったビジネスパートナーを疑うのね。寂しいじゃない」

 頬を膨らめる。エミリーの芝居がかった仕草もいつもの事なのに苛ついてしまう。

「エミリー! 答えになってない! しっかり教えて」

「ドクターが私の周りを調べていたんで、お返しで調べてやったの」
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