ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「乾杯!」
「……乾杯」
伴奏者とカウンターでグラスを合わせる。
「お酒は強い?」
「あまり飲みません」
「そうなんだ! 自分は結構強くてーー」
彼の世間話は右から左に抜けていき、視界の隅で語らう三人へ意識が集中する。
慎太郎は真剣に両親に訴えており、両親の方が困惑しているみたい。特に母が目配せして難色を示す。
一体、何を話しているんだろう。
「ねぇ、橘さん」
ふいに髪に触れられ、ハッとする。演奏を控えているので邪険にしづらく、抵抗は身を縮める程度に留めておく。
「橘さんは彼氏いるの?」
「か、彼氏ですか? えぇ、まぁ」
「へぇ、どんな人? 何をしてる?」
「とても優しい人です。職業は医者ですね」
「うわっ! 医者? エリートじゃないか! でもさ、医者ってリアリストっぽくない? 自分等アーティストとは思考回路が真逆そうなんだけど」
「そうでしょうか? 偏見じゃないです?」
こと慎太郎に限ってはロマンチスト、私に内緒でクレーンゲームを練習する男なのだ。
「いやいや、音楽家は音楽家同士の方が価値観が合うと思うんだけどなぁ〜」
膝に手を乗せられ、嫌悪感が込み上げる。この場を切り抜ける方法を巡らせるうち、舞台の準備が整ったのが見えた。
私は飲み足りないと愚図る伴奏者を引き摺り、ピアノへ押し込む。
あまりにも雑な演奏者の登場に周囲が若干どよめくが、彼等を黙らせる自信がある。
ヴァイオリンを構え、弓を引く。
ここは酒場、弾く曲は決まっているーーチャルダッシュ。
「……乾杯」
伴奏者とカウンターでグラスを合わせる。
「お酒は強い?」
「あまり飲みません」
「そうなんだ! 自分は結構強くてーー」
彼の世間話は右から左に抜けていき、視界の隅で語らう三人へ意識が集中する。
慎太郎は真剣に両親に訴えており、両親の方が困惑しているみたい。特に母が目配せして難色を示す。
一体、何を話しているんだろう。
「ねぇ、橘さん」
ふいに髪に触れられ、ハッとする。演奏を控えているので邪険にしづらく、抵抗は身を縮める程度に留めておく。
「橘さんは彼氏いるの?」
「か、彼氏ですか? えぇ、まぁ」
「へぇ、どんな人? 何をしてる?」
「とても優しい人です。職業は医者ですね」
「うわっ! 医者? エリートじゃないか! でもさ、医者ってリアリストっぽくない? 自分等アーティストとは思考回路が真逆そうなんだけど」
「そうでしょうか? 偏見じゃないです?」
こと慎太郎に限ってはロマンチスト、私に内緒でクレーンゲームを練習する男なのだ。
「いやいや、音楽家は音楽家同士の方が価値観が合うと思うんだけどなぁ〜」
膝に手を乗せられ、嫌悪感が込み上げる。この場を切り抜ける方法を巡らせるうち、舞台の準備が整ったのが見えた。
私は飲み足りないと愚図る伴奏者を引き摺り、ピアノへ押し込む。
あまりにも雑な演奏者の登場に周囲が若干どよめくが、彼等を黙らせる自信がある。
ヴァイオリンを構え、弓を引く。
ここは酒場、弾く曲は決まっているーーチャルダッシュ。