ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる

「それは伊集院へ援助を頼んだ事? 保身に走った事を謝ってるの?」

「どちらでもない。桜を一人ぼっちにして悪かった。遅くなってすまない、迎えに来たよ」

 慎太郎からは雨と汗の匂いがする。そして、私の無事を確かめる手付きに嘘の感触はない。

「ーーあぁ、身体が冷え切ってるな。何か温かい飲み物を淹れてやる」

「……」

「テーピングも剥がれてる。巻き直そう」

「沢山泣かせたな? 目だけじゃなく鼻の頭まで真っ赤だぞ。顔を洗おう。この際、風呂に入って温まるか」

「……」

 ラウンジでの出来事を言い訳するでなく、体調を案じる。

「桜、話したくないなら何も言わなくていい。だが、居なくなるのだけは勘弁してくれないか?」

 頭を撫でられ、ぽつりと言葉が漏れた。

「駅で」

「ん?」

 慎太郎のこの聞き返し方が優しい。

「駅でコーヒーを買おうとしたの」

「うん、それで?」

「でもルイボスティーを買った」

「……そうか、いい子」

 今、そんな報告をする必要はないのに伝えてしまう。
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