ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる

8・悲劇



 翌朝、慎太郎の腕の中で目を覚ます。あらゆる意味で嵐が去っていた。

「おはよう」

 彼はもう起きていて、微笑みながら私の髪を梳く。
 カーテンから漏れる日差しが眩しい。シーツを引っ張れば昨夜の跡があちこちに残されており、頬が熱くなる。

「そ、その、慎太郎、これは……」

「はは、桜が可愛くてさ、色んな場所に俺の印をつけておいたんだ。でも、朝になると白い肌に無体な真似をしてしまったなぁとも思う」

 手の甲に口付け、蕩けそうな表情を添えた。そんな幸せそうな顔をされると文句が言いにくい。

「まだ早いし、もう少しこうしていようか。昨夜は話もせずに過ごしたから」

 素肌の彼は大胆に擦り寄り、一線を超えた事を照れる私を茶化す。

「桜、こっち見ろよ」

「み、見てる」

「見てないだろ、ほら」

 慎太郎のキスは私を素直にさせる魔法。軽く啄まれただけで雛鳥みたく期待してしまう。
 もっと優しく撫でて欲しい、更にギュッと抱き締めて貰いたい、いつもキレイだねと褒められたい。すっかり欲張りになってしまった。

「なぁ、桜。俺の事が好きって言ってみて?」
 
「昨日、言ったじゃない!」

「いいじゃん、減るもんじゃねぇし。俺だって散々囁いたよな? まぁ、夢中で聞こえてなかったかもしれないが」

「もう! どうしてそんな意地悪ばかり言うの?」

「それは桜が可愛いからだろ。あっ、美しいからの方がいいか? いや、やっぱり可愛いな。俺のレディ」

「知らない!」

「いやぁー、これまでやられっぱなしだったしな。ベッドでは負けないぞ」

「なにそれ、変態!」

 そっぽを向き、まだ重たい瞼を擦る。

「まだ眠いんだろ? いいよ、起こしてやるから寝なさい」

 ポンポンと頭を撫でられた。

「……ねぇ、起きて全部が夢だったら怖い。手を繋いでてくれる?」

「人を変態って罵った後にこれは反則だろ」

 と言いつつ、繋いでくれる。
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