ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「先輩、付け入ろうとしてたんですか?」

 呆れる慎太郎。

「いや、ヴァイオリンが弾ければ他は何も要らないって言うものだから。手術する代わりに彼女になって貰おうとーー」

『最低』

 二人で声が揃った。もちろん、佐々木医師は冗談で言っている。

「アメリカだとパートナー同伴のパーティーが多いんだ。俺、なかなか相手が見付からなくて。決してモテない訳じゃないんだよ? 理想が高すぎるのかも。だからさ桜ちゃん、レンタルでいいので同行をお願い出来るかい?」

「はぁ? 俺の恋人をレンタルしようとしないで下さい! 貸すわけないでしょ、桜は俺専用なんだ」

「ーー俺専用とか、スケベだろ! 先輩は慎太郎をそんな医者に育てたつもりはありません!」

「育てられたつもりもありませんよ!」

 冗談で言っている、はず……。

「とにかく、だ」

 佐々木医師は場を掻き回しておき、やれやれと本題を持ち出す。

「慎太郎、そろそろ病院へ行こうか。あちらもあちらで処理がてんこ盛りだ」
 
「あっ、私が無断外泊したから?」

「それもあるが、やはり訴訟問題だな。桜、伊集院家に弁護士を紹介して貰ってもいいか?
 こういう問題に強い弁護士を雇いたい。病院の弁護士は主に医療に関して裁判しているからな」

「構わないけれど。エミリーには訴えないよう私から言ってもいいわ。彼女とはビジネスパートナーを解消するつもりだし……」

「いや、桜ちゃんは手術を終えるまでエミリーと接触しない方がいい。エミリーが直接的に桜ちゃんに危害を加える可能性だってゼロじゃない」

 佐々木医師の声は真剣で、慎太郎も同意する。
< 82 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop