ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「意識が戻ったばかりで無理はさせられない。これから忙しくなるぞ」

「……エミリーの事?」

「マネージャー、いや元マネージャーや桜を刺した犯人については伊集院家が全力で対応してくれているよ。桜は傷を癒やすことを第一優先にして、ヴァイオリンの練習をするんだ」

 促され、手首を確認した。厚く包帯が巻いてあるので感覚は鈍い。

「桜は機械じゃない。完全に元通りとまではいかないが、リハビリをしっかりすればまた弾けるようになる。それからーー」

 慎太郎がテレビをつける。

『俳優を復帰した理由? 娘の演奏を聴いたからよ。思い出したの、演じる楽しさを』

 画面に母が映っていた。俳優復帰と大々的に報じられ、マスコミに囲まれて沢山のフラッシュを浴びている。

『このタイミングでの復帰が売名行為? あら、私を誰だと思ってるの?』

 高飛車な振る舞いは健在だ。真っ赤な紅を引いた唇で批判を打ち返すと、少女のように無邪気に笑う。離婚危機なのかとの質問には魔女みたく高らかに笑った。

「お義母さんのお陰で桜のスキャンダルが霞んだのは事実。ちなみに桜のスポンサーは一社も降りてないよ。お見舞いのコメントを出していた」

「そう……ところで母をもう義母と呼ぶのね」

「驚け、最近じゃ一緒にクレーンゲームをしてるぞ。クレーンゲームって何も手がつかない時にはいいんだ、一台購入しようと考えてるくらい。家でゲーム出来るなんて最高だろ?」

「お願いだからやめて。でも、お礼を言わなくちゃね。お母さんとーーお父さんに」
< 89 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop