そんなの、嘘。
玄関の電灯が嫌な音を立てて、消えてしまった。
「……っ!」
ここに来てまで、怪奇現象が続くの!?
電気を見つめて固まる私に、
「ちょっと、やだー!和音、あんた変なもの、連れて帰って来てないよね!?」
と、母が自分の両腕をさする。
「えっ、何?お前、霊感とかあんの?」
兄が私と電気を交互に見る。
「……わ、わかんない」
「わかんないって、ちょっとマジで?怖いんだけど」
呆然と三人で立っていると、男性従業員の中村さんが母を呼びにやって来た。
「すんません、女将さん。お客様がお呼びになってはります」
「えっ?あら、そう?じゃあお母さん、行くからね。和音、部屋でゆっくりしてなさい。お兄ちゃんは電気、替えておいてくれる?」
母が旅館のほうへ行き、兄が物置に行くのを見送ってから、中村さんは私に話しかけてきた。
「お嬢さん、おかえりなさい。中村です、覚えてはりますか?」