そんなの、嘘。

「……よく風太から聞いてたよ。和音ちゃんの話」

「そうなんですね。ろくな話じゃなかったかもしれませんけど」
と、私は笑う。



ひきつった笑いになってしまった。




(……お願い、勘違いだって言って)




部屋に入った時から。

お線香の匂いがしていることも。

羽花さんの悲しそうな表情も。

風太のことを過去形で話していることも。




(違うよね?)




「風太、和音ちゃんが来てくれたよ」
と、羽花さんが言う。



玄関からすぐの部屋のドアを開けて。



そのドアの向こうで。

風太が、いた。







イタズラっこみたいな、ニィッと口の端をあげて、笑っている。



『お前、来るの遅ぇよ』




……そう言われた気がした。







風太が。

写真の中にしかいないことに。

私は愕然とした。







「あいつ、高校を卒業してすぐにね、亡くなったの。バイク事故で」

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