片恋 好きな人には好きな人がいる
蝉が鳴きはじめて数日経ったある日、いつものように一輝と下校してると、不意に名前を呼ばれた。
「旭!旭?」
「ん?あぁ…」
考え事をしていたら呼ばれてることに全く気づかなかったらしい。
慌てて返事をすると、一輝から少し呆れたような
ため息が後ろから聞こえた。
「さっきから呼んでるのに!旭、なんか最近変だよ?」
いつもと変わらないつもりだったけど、こういう時だけ鋭いんだよな、ほんと。
俺は小さく舌打ちをして立ち止まった。
「なんだよ、急に……」
突然立ち止まったせいで背中にぶつかった一輝が文句を言いながらおでこをさすっている頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
「何するんだよ!ぼーっとしてるっていうかさ、心ここに在らずって感じで、何かあったのかなって」
本気で嫌がっている様子もなく、俺の手を払い除けながら少し心配そうな顔で見てくる一輝に気づかれないように小さくため息をついた。
普段はヘラヘラして何考えてるか分からないくせに俺のことよく見てんだよな…。
俺は何も言えずに黙り込んだ。
自分の想いを人に打ち明けるのは苦手だし、上手く説明できる自信もない。
何も言わずに俯いている俺をしばらく見ていた一輝が笑って顔を覗き込んできた。