片恋 好きな人には好きな人がいる
気づく瞬間
季節が巡り、中学三年の秋になった。
学校の帰りに公園のジャングルジムのてっぺんで僕は夕陽を眺めていた。
旭は用事があって遅れて来るらしく、一人でボッーと待っていた。
空は綺麗な茜色に染まり、雲一つなく澄んだ空には星が輝きはじめていて、夜になる前に帰らなきゃいけないことは分かっているけれど、ずっと見ていたくてまだ帰る気になれなかった。
「一輝!」
声に振り向くと、息を切らしながらこちらに向かってくるのが旭が見えた。
「遅いよー」
「悪ぃ、ちょっと長引いた」
息を整えている旭の髪に夕闇の光が反射して、キラキラと輝いている。
ジャングルジムを登り、僕の隣まで来ると、眩しそうに目を細めて空を見上げていた。
風が吹くたびに、ふわっと旭の匂いが香って
その匂いにドキッとする。
なぜか急に照れくさくなって、旭の顔を見れなくなった。
最近、一緒にいると妙に落ち着かない気持ちになる。
「昔、ここで初めて旭が笑ったの覚えてる?旭が笑ったの僕、嬉しかったんだよー」
「そうだったか?あんま覚えてねぇけど」
「そっか……」
なんだか少し寂しい気持ちになって俯くと、旭の手が僕の頭を撫でた。
「なに?!」
びっくりして旭を見上げると、旭も驚いた顔をしていた。
「いや、一輝の髪ふわふわだなと思って」
そう言うと今度は髪をぐしゃぐしゃと掻き回してきた。
「わっ!ちょっとやめてよ!せっかくセットしてるのに!」
「ははっ、悪りぃ」
楽しそうに笑う旭を見ていると、それだけで幸せな気持ちになる。