かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
婚約指輪
「婚約指輪がいるらしい」
「婚約指輪?」
月曜日、帰ってくるなり、拓斗は望晴に告げた。
おうむ返しに聞いて、望晴は首を傾げた。
このところ、突拍子もないことばかりだ。
「婚約したなら、なぜ婚約指輪がないんだと母と甲斐がうるさいんだ。しかたないから買いに行こう」
とてもめんどくさそうに拓斗が言う。
なんでこんなことになったんだとぶつぶつ言っている。
彼の祖父のところに行くのは一回きりだというのに、そこまでする必要があるのかと望晴は戸惑った。
「本当にいりますか?」
「婚約指輪をはめていない理由を聞かれたらどうするんだと甲斐が言うんだ。言われてみれば、確かにそうなんだ。だから、買うのが無難だ。うだうだ言っていてもしかたない。時間もないしな」
「でも……」
「やると決めたら徹底的にやる。母によると、そこの櫻坂にちょうどいい宝石店があるらしい。君が好きなのを選べばいい。あぁ、そうだ。別に一緒に行かなくても、君が選んでくれたら、僕が買ってくる」
櫻坂とは、ここのノースエリアと海をつなぐ坂道だ。高級店ばかりが並んでいて、望晴は入ったことさえない。そんなところの宝石店で婚約指輪なんて買ったら高いだろうに、軽く拓斗が言う。
偽の婚約者に贈るには高すぎるだろうと望晴はあきれた。
こんなところにも彼の信条が現れていた。
悩むのは時間がもったいないと。
それでも、やるなら万全を期したいという気持ちはわかるので、望晴は溜め息をついて言った。
「……私ひとりでは選べませんので、申し訳ありませんが、ついてきていただけませんか? お仕事帰りにでも時間をいただければ」
「わかった。七時半ぐらいに行けば間に合うだろう?」
「そうですね。そのときは店長に言って、早上がりさせてもらいます」
G.rowで服を買うときもだいたいその時間に拓斗は来る。
「わかった。じゃあ、明日はどうだ?」
せっかちな彼らしく早速予定を決めようとする。
でも、望晴は首を横に振った。
「今日の明日じゃさすがに急すぎます。明後日ではいかがですか?」
「わかった。甲斐に調整させよう。じゃあ、水曜の七時半に君の店に行く」
「承知しました」
問題は片づいたとばかりに拓斗は微笑んだ。
水曜になり、帰り支度を整えた望晴は拓斗が来るのを待っていた。
「おっ、望晴、婚約者殿がいらっしゃったぞ」
啓介がからかい気味に声をかけてきた。彼に事情を話したら、おもしろがられてしまったのだ。
チャコールグレーのビジネスコートを身にまとったスタイリッシュな拓斗が近づいてくる。
「ふり、ですよ!」
小声で否定するが、啓介はにやにや笑いを崩さない。さらに笑みを深めて拓斗を出迎えた。
「由井様、こんばんは」
「あぁ、こんばんは。西原さんを借りてすまないな」
「いいえ、どうぞどうぞ」
居たたまれなくなった望晴は拓斗の腕を引っ張り店から連れ出した。
「時間がないので、行きましょう。店長、お先です」
「お疲れ~」
啓介が手を振った。
「婚約指輪?」
月曜日、帰ってくるなり、拓斗は望晴に告げた。
おうむ返しに聞いて、望晴は首を傾げた。
このところ、突拍子もないことばかりだ。
「婚約したなら、なぜ婚約指輪がないんだと母と甲斐がうるさいんだ。しかたないから買いに行こう」
とてもめんどくさそうに拓斗が言う。
なんでこんなことになったんだとぶつぶつ言っている。
彼の祖父のところに行くのは一回きりだというのに、そこまでする必要があるのかと望晴は戸惑った。
「本当にいりますか?」
「婚約指輪をはめていない理由を聞かれたらどうするんだと甲斐が言うんだ。言われてみれば、確かにそうなんだ。だから、買うのが無難だ。うだうだ言っていてもしかたない。時間もないしな」
「でも……」
「やると決めたら徹底的にやる。母によると、そこの櫻坂にちょうどいい宝石店があるらしい。君が好きなのを選べばいい。あぁ、そうだ。別に一緒に行かなくても、君が選んでくれたら、僕が買ってくる」
櫻坂とは、ここのノースエリアと海をつなぐ坂道だ。高級店ばかりが並んでいて、望晴は入ったことさえない。そんなところの宝石店で婚約指輪なんて買ったら高いだろうに、軽く拓斗が言う。
偽の婚約者に贈るには高すぎるだろうと望晴はあきれた。
こんなところにも彼の信条が現れていた。
悩むのは時間がもったいないと。
それでも、やるなら万全を期したいという気持ちはわかるので、望晴は溜め息をついて言った。
「……私ひとりでは選べませんので、申し訳ありませんが、ついてきていただけませんか? お仕事帰りにでも時間をいただければ」
「わかった。七時半ぐらいに行けば間に合うだろう?」
「そうですね。そのときは店長に言って、早上がりさせてもらいます」
G.rowで服を買うときもだいたいその時間に拓斗は来る。
「わかった。じゃあ、明日はどうだ?」
せっかちな彼らしく早速予定を決めようとする。
でも、望晴は首を横に振った。
「今日の明日じゃさすがに急すぎます。明後日ではいかがですか?」
「わかった。甲斐に調整させよう。じゃあ、水曜の七時半に君の店に行く」
「承知しました」
問題は片づいたとばかりに拓斗は微笑んだ。
水曜になり、帰り支度を整えた望晴は拓斗が来るのを待っていた。
「おっ、望晴、婚約者殿がいらっしゃったぞ」
啓介がからかい気味に声をかけてきた。彼に事情を話したら、おもしろがられてしまったのだ。
チャコールグレーのビジネスコートを身にまとったスタイリッシュな拓斗が近づいてくる。
「ふり、ですよ!」
小声で否定するが、啓介はにやにや笑いを崩さない。さらに笑みを深めて拓斗を出迎えた。
「由井様、こんばんは」
「あぁ、こんばんは。西原さんを借りてすまないな」
「いいえ、どうぞどうぞ」
居たたまれなくなった望晴は拓斗の腕を引っ張り店から連れ出した。
「時間がないので、行きましょう。店長、お先です」
「お疲れ~」
啓介が手を振った。