かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
二人は藤枝がお勧めだという宝石店に向かった。
入口に大きなシャンデリアがぶらさがっているいかにも高級な店構えだ。
金縁のショーケースの中には上品なデザインの指輪やペンダントが並んでいる。
「いらっしゃいませ」
オフホワイトの制服を着た店員に声をかけられた。
「婚約指輪がほしいんだ」
「承知いたしました。それではこちらにどうぞ」
二人は店の奥のソファーのある商談コーナーに案内された。
壁際にずらりと指輪が並んでいる。
店員はカタログを見せて説明する。
「弊社では婚約指輪はセミオーダーで承っておりまして、お好きなデザイン、ダイヤモンドをお選びいただき、お客様のための唯一無二の指輪をお作りします」
「来週末には必要なんだ。間に合うか?」
「ご希望の内容にもよりますが、こちらに在庫があるものからお選びいただけたら一週間でご用意できます」
「そうか。それなら、西原さん、選んでくれ」
そう言われても、ちらっと見たところ、価格は最低でも五十万円を超えていて、値段がついていないものも多かった。
怖くてとても選べない。
「好きなデザインを選べばいい」
尻込みする望晴を急かすように、気の短い拓斗が言う。
慌てた望晴はできるだけ安いものをと思って、一粒ダイヤがついているデザインを指さした。
「それではこれで」
あっさり決めた二人に少し驚いた顔をした店員だったが、カタログのページをめくり言った。
「ダイヤモンドはカラット、カラー、クラリティをお選びいただけます。ご希望はございますか?」
あまり装飾品に詳しくない望晴はカラットは聞いたことがあったが、どの大きさがいいのかわからなかったし、カラー、クラリティになるとさっぱりわからなかった。
戸惑う様子が伝わったようで、店員は丁寧に説明してくれた。
「いきなり言われてもわからないですよね。ダイヤモンドには品質評価国際基準“4C”というものがございます。カラットは重さ、カットは輝き、カラーは色、クラリティは透明度を表し、その頭文字を取って4Cと言われています。カットは先ほどデザインを選んでいただいたので定まりました。あとは好みやご予算で決めていくのがよろしいかと」
「予算は百万以内。そちらで適当に選んでもらうわけにはいかないか?」
拓斗がせっかちに言うと、店員はやんわりとたしなめた。
「生涯における大事な選択になりますので、奥さまの好みを伺って、満足していただけるものをご提供したいと存じます」
このやりとりは、拓斗が初めてG.rowに来て、マネキンの着ている服でいいと言ったときの望晴の対応と似ている。
店員の気持ちがわかるだけに、適当に婚約指輪を買おうとしている自分たちが恥ずかしくなった。
(だって、生涯かけてないし、ね……)
ちらっと窺うと、拓斗も同じようなことを考えていたのか、苦笑いしていた。
「選びやすいものからお決めいただきましょうか?」
店員はカタログのカラーというページを指し示した。
そこにはダイヤモンドの写真とその下にアルファベットが並んでいた。左から『無色』『ほぼ無色』『ごくかすかな色味』というように説明があって、右に行くほどに黄色い色味がついていっていた。
「当店で扱っているものはこのDからHの間のものになりますので、ほぼ無色と考えていただいていいです」
「じゃあ、Hで」
望晴は即座に一番安いと思われるグレードを選んだ。
店員はうなずいてオーダー用紙に記入した。
「それでは、次はクラリティですね」
そう言って店員が示したページには『FL』『IF』『VVS1』などの謎の記号が並んでいた。
「こちらも当店で扱っているダイヤモンドはVVS2までですので、ごくごくわずかな内包物になります」
「VVS2でお願いします」
「それでは、その品質でご予算が百万円ですと0.5カラットのものがご用意できます」
0.5カラットのダイヤモンドの見本を見せられて、望晴はたじろいだ。
(これ大きすぎない?)
「いいえ、百万円使わなくていいので、もっと小さいものはありませんか? 普通の大きさで」
「普通と言いますと、0.3カラットのものが比較的人気です」
「遠慮しなくていいんだぞ?」
店員とのやりとりを黙って聞いていた拓斗が口を挟んできた。
(おじいさまに見せるためだけのために百万円も使うなんてとんでもないわ!)
ブンブンとかぶりを振って、望晴は言い張った。
「0.3カラットがいいです! 私、手が小さいので、それくらいがいいんです!」
「そうか」
「承知いたしました」
拓斗も店員も納得してくれたようで、望晴はほっとした。
入口に大きなシャンデリアがぶらさがっているいかにも高級な店構えだ。
金縁のショーケースの中には上品なデザインの指輪やペンダントが並んでいる。
「いらっしゃいませ」
オフホワイトの制服を着た店員に声をかけられた。
「婚約指輪がほしいんだ」
「承知いたしました。それではこちらにどうぞ」
二人は店の奥のソファーのある商談コーナーに案内された。
壁際にずらりと指輪が並んでいる。
店員はカタログを見せて説明する。
「弊社では婚約指輪はセミオーダーで承っておりまして、お好きなデザイン、ダイヤモンドをお選びいただき、お客様のための唯一無二の指輪をお作りします」
「来週末には必要なんだ。間に合うか?」
「ご希望の内容にもよりますが、こちらに在庫があるものからお選びいただけたら一週間でご用意できます」
「そうか。それなら、西原さん、選んでくれ」
そう言われても、ちらっと見たところ、価格は最低でも五十万円を超えていて、値段がついていないものも多かった。
怖くてとても選べない。
「好きなデザインを選べばいい」
尻込みする望晴を急かすように、気の短い拓斗が言う。
慌てた望晴はできるだけ安いものをと思って、一粒ダイヤがついているデザインを指さした。
「それではこれで」
あっさり決めた二人に少し驚いた顔をした店員だったが、カタログのページをめくり言った。
「ダイヤモンドはカラット、カラー、クラリティをお選びいただけます。ご希望はございますか?」
あまり装飾品に詳しくない望晴はカラットは聞いたことがあったが、どの大きさがいいのかわからなかったし、カラー、クラリティになるとさっぱりわからなかった。
戸惑う様子が伝わったようで、店員は丁寧に説明してくれた。
「いきなり言われてもわからないですよね。ダイヤモンドには品質評価国際基準“4C”というものがございます。カラットは重さ、カットは輝き、カラーは色、クラリティは透明度を表し、その頭文字を取って4Cと言われています。カットは先ほどデザインを選んでいただいたので定まりました。あとは好みやご予算で決めていくのがよろしいかと」
「予算は百万以内。そちらで適当に選んでもらうわけにはいかないか?」
拓斗がせっかちに言うと、店員はやんわりとたしなめた。
「生涯における大事な選択になりますので、奥さまの好みを伺って、満足していただけるものをご提供したいと存じます」
このやりとりは、拓斗が初めてG.rowに来て、マネキンの着ている服でいいと言ったときの望晴の対応と似ている。
店員の気持ちがわかるだけに、適当に婚約指輪を買おうとしている自分たちが恥ずかしくなった。
(だって、生涯かけてないし、ね……)
ちらっと窺うと、拓斗も同じようなことを考えていたのか、苦笑いしていた。
「選びやすいものからお決めいただきましょうか?」
店員はカタログのカラーというページを指し示した。
そこにはダイヤモンドの写真とその下にアルファベットが並んでいた。左から『無色』『ほぼ無色』『ごくかすかな色味』というように説明があって、右に行くほどに黄色い色味がついていっていた。
「当店で扱っているものはこのDからHの間のものになりますので、ほぼ無色と考えていただいていいです」
「じゃあ、Hで」
望晴は即座に一番安いと思われるグレードを選んだ。
店員はうなずいてオーダー用紙に記入した。
「それでは、次はクラリティですね」
そう言って店員が示したページには『FL』『IF』『VVS1』などの謎の記号が並んでいた。
「こちらも当店で扱っているダイヤモンドはVVS2までですので、ごくごくわずかな内包物になります」
「VVS2でお願いします」
「それでは、その品質でご予算が百万円ですと0.5カラットのものがご用意できます」
0.5カラットのダイヤモンドの見本を見せられて、望晴はたじろいだ。
(これ大きすぎない?)
「いいえ、百万円使わなくていいので、もっと小さいものはありませんか? 普通の大きさで」
「普通と言いますと、0.3カラットのものが比較的人気です」
「遠慮しなくていいんだぞ?」
店員とのやりとりを黙って聞いていた拓斗が口を挟んできた。
(おじいさまに見せるためだけのために百万円も使うなんてとんでもないわ!)
ブンブンとかぶりを振って、望晴は言い張った。
「0.3カラットがいいです! 私、手が小さいので、それくらいがいいんです!」
「そうか」
「承知いたしました」
拓斗も店員も納得してくれたようで、望晴はほっとした。