かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
京都へ
京都に行く日が来た。
望晴は上品なワンピースを着て、念入りに化粧をした。好感度を持たれるように、全体的に明るくさわやかに仕上げる。
拓斗に恥をかかせるわけにはいかないと気合いを入れたのだ。こんなとき、カラーコーディネートの知識が役に立つ。
左手の薬指にはキラキラ光るダイヤモンドリングが嵌っている。
(綺麗だわ。私が婚約指輪をつけることになるなんてね)
旅行が終わったらもちろん返すつもりだが、それでも美しいものを身につけるとテンションが上がる。
今日の拓斗のコーディネートにはスマートカジュアルを意識して、濃紺のジャケットとグレーチェックのチノパンを用意した。中のシャツはボタンを二つ開けて、ノーネクタイだ。相変わらず、モデルのような着こなしだ。
二人は新幹線に乗り、京都駅に着いた。
「う〜、寒い」
京都が底冷えすると知っている望晴は、拓斗と自分に分厚いコートを選んでいた。それでも、寒い。
空は快晴だったが、風が強く、身に染みた。
「大丈夫か?」
拓斗は望晴の肩を抱き寄せ、風よけになってくれる。
駅前はバス乗り場が迷路のようだ。その一角にタクシー乗り場がある。
拓斗は迷わず、タクシー乗り場に向かった。時期が悪いのでそれほど客は多くなく、すぐ乗れた。
「御所のほうまで行ってくれ」
まず、彼の祖父の家に行くことになっている。
駅前のロウソクのような京都タワーを見ると、故郷に帰ってきたなと思う。
タクシーが御所の近くに来ると、拓斗が道案内をした。
「次の信号を左に曲がって、はるやの前で停まってくれ」
「え?」
彼が指示したのは望晴の実家の目と鼻の先だった。
しかもそのはるやは望晴がよく通っていた店だ。
拓斗が不思議そうに振り返る。
「うちの実家そこなんです。あまりに近くてびっくりして」
「そうか。そこまで近かったんだな」
タクシーを降りると、彼はまっすぐはるやに向かった。
(え、えっ、由井さんのおじいさまってまさか、はるやのおじいちゃん?)
店舗の入り口ではなく、その横の通用口を開ける。そこは細い庭になっていて、京町屋独特のうなぎの寝床と言われる造りになっているようだ。奥に進むと玄関があった。そこで呼び鈴を鳴らす。
「いらっしゃい、拓斗。そちらが……えっ、みっちゃん?」
「はるやのおばあちゃん?」
出てきたのは白髪をきっちりとまとめた着物姿の老婦人で、望晴を見て、目を瞠った。
望晴も驚いて目を瞬いた。つい昔からの呼び方で呼んでしまう。
「二人は知り合いなのか?」
拓斗がその反応を見て聞いてきた。
二人ともうんうんとうなずいて興奮してしゃべりだした。
「そうなのよ。みっちゃんは小さいころからうちの和菓子を気に入ってくれて、お母さんと一緒によく来てくれたのよ」
「はるやさんのお菓子が大好きで、なにかあると買ってもらってたんです。はるやのおじいちゃんもおばあちゃんもお菓子の解説をしてくれて、よりいっそう和菓子が好きになって。はるやさんは私の原点なんです!」
「拓斗のお相手がみっちゃんなんて、うれしいわ! ちょっと、お父さん、大変よ! みっちゃんだったわ!」
祖母は「入って」と言うと、興奮したまま、奥に駆け込んでいった。
望晴は上品なワンピースを着て、念入りに化粧をした。好感度を持たれるように、全体的に明るくさわやかに仕上げる。
拓斗に恥をかかせるわけにはいかないと気合いを入れたのだ。こんなとき、カラーコーディネートの知識が役に立つ。
左手の薬指にはキラキラ光るダイヤモンドリングが嵌っている。
(綺麗だわ。私が婚約指輪をつけることになるなんてね)
旅行が終わったらもちろん返すつもりだが、それでも美しいものを身につけるとテンションが上がる。
今日の拓斗のコーディネートにはスマートカジュアルを意識して、濃紺のジャケットとグレーチェックのチノパンを用意した。中のシャツはボタンを二つ開けて、ノーネクタイだ。相変わらず、モデルのような着こなしだ。
二人は新幹線に乗り、京都駅に着いた。
「う〜、寒い」
京都が底冷えすると知っている望晴は、拓斗と自分に分厚いコートを選んでいた。それでも、寒い。
空は快晴だったが、風が強く、身に染みた。
「大丈夫か?」
拓斗は望晴の肩を抱き寄せ、風よけになってくれる。
駅前はバス乗り場が迷路のようだ。その一角にタクシー乗り場がある。
拓斗は迷わず、タクシー乗り場に向かった。時期が悪いのでそれほど客は多くなく、すぐ乗れた。
「御所のほうまで行ってくれ」
まず、彼の祖父の家に行くことになっている。
駅前のロウソクのような京都タワーを見ると、故郷に帰ってきたなと思う。
タクシーが御所の近くに来ると、拓斗が道案内をした。
「次の信号を左に曲がって、はるやの前で停まってくれ」
「え?」
彼が指示したのは望晴の実家の目と鼻の先だった。
しかもそのはるやは望晴がよく通っていた店だ。
拓斗が不思議そうに振り返る。
「うちの実家そこなんです。あまりに近くてびっくりして」
「そうか。そこまで近かったんだな」
タクシーを降りると、彼はまっすぐはるやに向かった。
(え、えっ、由井さんのおじいさまってまさか、はるやのおじいちゃん?)
店舗の入り口ではなく、その横の通用口を開ける。そこは細い庭になっていて、京町屋独特のうなぎの寝床と言われる造りになっているようだ。奥に進むと玄関があった。そこで呼び鈴を鳴らす。
「いらっしゃい、拓斗。そちらが……えっ、みっちゃん?」
「はるやのおばあちゃん?」
出てきたのは白髪をきっちりとまとめた着物姿の老婦人で、望晴を見て、目を瞠った。
望晴も驚いて目を瞬いた。つい昔からの呼び方で呼んでしまう。
「二人は知り合いなのか?」
拓斗がその反応を見て聞いてきた。
二人ともうんうんとうなずいて興奮してしゃべりだした。
「そうなのよ。みっちゃんは小さいころからうちの和菓子を気に入ってくれて、お母さんと一緒によく来てくれたのよ」
「はるやさんのお菓子が大好きで、なにかあると買ってもらってたんです。はるやのおじいちゃんもおばあちゃんもお菓子の解説をしてくれて、よりいっそう和菓子が好きになって。はるやさんは私の原点なんです!」
「拓斗のお相手がみっちゃんなんて、うれしいわ! ちょっと、お父さん、大変よ! みっちゃんだったわ!」
祖母は「入って」と言うと、興奮したまま、奥に駆け込んでいった。