かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
拓斗と一緒にリビングに戻る。
そこでは拓斗の祖父母と望晴の父母が談笑していた。
テーブルの上には婚姻届が広げてあり、すでに証人の欄は埋まっていた。
それを見て苦笑しつつも、拓斗は置いてあったボールペンを取り上げ、名前を記入した。
望晴もそれに続き署名すると、周囲から歓声があがった。
ハンコはそれぞれの身内に借りた。
あっという間に婚姻届が完成してしまい、望晴はどうしても現実感が持てなかった。
「市役所はすぐそこだから、散歩がてら出しに行くか」
祖父がそう言い出した。
確かに市役所は歩いて十分ぐらいだ。車椅子を押していっても二十分もかからないだろう。
みんな口々に賛成して、ぞろぞろと六人で市役所まで行くことになった。
(そんなに私たちが心配だったのかな)
親たちの拙速な行動に、望晴はもう笑うしかなかった。
拓斗のせっかちは祖父譲りなのかもしれない。
祖父の車椅子は電動だったので押す必要はなく、拓斗はその横に並んで歩き、募る話をしているようだった。
望晴は母に小声であれこれ聞かれていた。
「もういつ引っ越したのよ? どういう経緯で拓斗さんと知り合ったの?」
「由井さ……拓斗さんはうちのお店のお客さんだったの。先月、アパートが火事になっちゃって、困っていたところに拓斗さんが一緒に住もうと言ってくれたの」
「火事!? それも聞いてないわよ!」
「ごめん。心配するかなと思って」
望晴は素直に謝った。
「まぁいいわ。結果オーライじゃない。拓斗さんはかっこいいし穏やかそうでよかったわね。そういえば、なにをされてる方なの?」
それも知らず、昔馴染みの夫婦の孫という信用だけで望晴との結婚を後押ししてしまったと気づいて、母は今さらながら焦った表情をした。
その感情の流れを読んで、望晴は笑った。
「拓斗さんはIT企業の社長よ。とても親切で、私にはもったいない方だわ」
「社長!? すごいわね。でも、そんな方と結婚できるなんて、本当によかったわ! これで安心ね!」
気を取り直した母は上機嫌に言った。隣で聞いていた父が苦笑いをした。
「でも、なにかあったら気軽に言うんだぞ? 望晴は溜めこむ癖があるからな」
真面目な表情に戻った父が言う。
目頭が熱くなった望晴はこくんとうなずいた。
京都市役所は塔が特徴的なレトロなデザインの大きな建物だ。
その前面の広場を抜けて、重厚な柱と屋根のある入口を入ると時間外窓口を見つけた。そこの係の人に婚姻届を渡すと「おめでとうございます」と言われて、あっさり受理される。
(これで入籍したことになるの?)
あまりにあっけなくて、茫然としていると、涙ぐんだ母からも「おめでとう」と言われた。
「拓斗さん、望晴をどうぞよろしくお願いします」
「みっちゃん、拓斗は誤解されやすいけど、いい子なんです。見捨てないであげてくださいね」
「大丈夫です。拓斗さんが優しいのはわかってますから」
「よかった!」
「拓斗をどうかよろしく、みっちゃん」
拓斗の祖父母に頼まれてうなずきつつも、望晴は罪悪感が募った。
その日、拓斗は祖父母の家、望晴は実家に泊まった。
拓斗のことを聞かれるとうろたえたが、ベリが丘レジデンスの豪華さや啓介の近況を話しながらごまかして、望晴は久しぶりの実家でくつろいだ。
そこでは拓斗の祖父母と望晴の父母が談笑していた。
テーブルの上には婚姻届が広げてあり、すでに証人の欄は埋まっていた。
それを見て苦笑しつつも、拓斗は置いてあったボールペンを取り上げ、名前を記入した。
望晴もそれに続き署名すると、周囲から歓声があがった。
ハンコはそれぞれの身内に借りた。
あっという間に婚姻届が完成してしまい、望晴はどうしても現実感が持てなかった。
「市役所はすぐそこだから、散歩がてら出しに行くか」
祖父がそう言い出した。
確かに市役所は歩いて十分ぐらいだ。車椅子を押していっても二十分もかからないだろう。
みんな口々に賛成して、ぞろぞろと六人で市役所まで行くことになった。
(そんなに私たちが心配だったのかな)
親たちの拙速な行動に、望晴はもう笑うしかなかった。
拓斗のせっかちは祖父譲りなのかもしれない。
祖父の車椅子は電動だったので押す必要はなく、拓斗はその横に並んで歩き、募る話をしているようだった。
望晴は母に小声であれこれ聞かれていた。
「もういつ引っ越したのよ? どういう経緯で拓斗さんと知り合ったの?」
「由井さ……拓斗さんはうちのお店のお客さんだったの。先月、アパートが火事になっちゃって、困っていたところに拓斗さんが一緒に住もうと言ってくれたの」
「火事!? それも聞いてないわよ!」
「ごめん。心配するかなと思って」
望晴は素直に謝った。
「まぁいいわ。結果オーライじゃない。拓斗さんはかっこいいし穏やかそうでよかったわね。そういえば、なにをされてる方なの?」
それも知らず、昔馴染みの夫婦の孫という信用だけで望晴との結婚を後押ししてしまったと気づいて、母は今さらながら焦った表情をした。
その感情の流れを読んで、望晴は笑った。
「拓斗さんはIT企業の社長よ。とても親切で、私にはもったいない方だわ」
「社長!? すごいわね。でも、そんな方と結婚できるなんて、本当によかったわ! これで安心ね!」
気を取り直した母は上機嫌に言った。隣で聞いていた父が苦笑いをした。
「でも、なにかあったら気軽に言うんだぞ? 望晴は溜めこむ癖があるからな」
真面目な表情に戻った父が言う。
目頭が熱くなった望晴はこくんとうなずいた。
京都市役所は塔が特徴的なレトロなデザインの大きな建物だ。
その前面の広場を抜けて、重厚な柱と屋根のある入口を入ると時間外窓口を見つけた。そこの係の人に婚姻届を渡すと「おめでとうございます」と言われて、あっさり受理される。
(これで入籍したことになるの?)
あまりにあっけなくて、茫然としていると、涙ぐんだ母からも「おめでとう」と言われた。
「拓斗さん、望晴をどうぞよろしくお願いします」
「みっちゃん、拓斗は誤解されやすいけど、いい子なんです。見捨てないであげてくださいね」
「大丈夫です。拓斗さんが優しいのはわかってますから」
「よかった!」
「拓斗をどうかよろしく、みっちゃん」
拓斗の祖父母に頼まれてうなずきつつも、望晴は罪悪感が募った。
その日、拓斗は祖父母の家、望晴は実家に泊まった。
拓斗のことを聞かれるとうろたえたが、ベリが丘レジデンスの豪華さや啓介の近況を話しながらごまかして、望晴は久しぶりの実家でくつろいだ。