かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
「いかがでしょうか?」

 待っている間も秘書の甲斐になにやら指示したり、スマートフォンになにか打ち込んだりしていた拓斗も台の上に目を遣る。

「へぇ……」

 めんどくさそうだった拓斗の表情が変わった。口端をあげて望晴を見る。
 どうやらおもしろがっているようだ。

「さすがセンスがいい。しかも、この短時間によくこんな組み合わせができましたね」

 甲斐も褒めてくれた。
 望晴はにっこり微笑んで説明した。

「こちらは着心地の良さをメインに考えた完全にカジュアルなものです。そして、もう一方はビジネスカジュアルを意識したもので、ボトムをスラックス、靴をローファーに変えていただくだけで、よりオフィシャル感が出ます。着回ししやすいですよ」
「全部もらおう」

 望晴の説明を聞くと、拓斗は即決した。

「全部ですか?」
「あぁ」

 驚いた望晴が声をあげるが、拓斗はあっさりうなずく。
 シャツやボトムはそれぞれ五万前後するし、小物もあるから、全部となると四十万円近いが、彼は値段を見もしない。財布からカードを出して、望晴に渡した。

(ブラックカード!)

 一般ではなかなかお目にかかることのないプラチナカードをここベリが丘ではしばしば目にする。
 それでも、ブラックカードはさすがに稀だった。

「コーディネートの種類ごとに包んでくれるか?」
「その前に、ご試着は――」
「採寸したサイズで選んでくれたんだろ?」
「もちろん、そうですが……」
「じゃあ、問題ない」
「承知いたしました」

 望晴は商品タグを外しながら、サイズは間違っていないか確認していった。そして、丁寧に畳み、袋に詰めていく。
 ブラックカードを望晴から預かった店長がタグを見て、レジに打ち込んでくれた。

「三十八万九千円になります。こちらに暗証番号をお願いします」
「ん」

 金額に驚いた様子もなく、拓斗はカードを承認した。
 望晴のコーディネートもしくは対応を気に入ったようで、それから拓斗はふらっとやってきては、彼女の提案した服を買っていくようになった。


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