かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
足早に歩き始めた望晴だったが、彼女には行くところがない。
(どこに行こう?)
豪邸が立ち並ぶ中をとぼとぼ歩いていく。
心はこんなにどんよりしているのに、空は腹が立つくらいの快晴だ。
ノースエリアを抜けて、櫻坂を下る。
買い物客や観光客などの人混みを避けてあてどなく歩いているうちに、港に行き着いた。
青空を映した海は美しく、そこにはマンションのような大型客船が停泊していた。その中には高級レストランやバーはもちろん、シアターや劇場、カジノ、スパやジムなどの豪華施設が揃っているとテレビ番組で解説していたのを思い出す。
自分には別世界のことだと望晴はそのとき思った。
でも、拓斗と昨日の女性だったら、この豪華客船に乗っていても違和感はない。
(もともと私とは世界が違う人だったのよ)
背後には拓斗の両親と食事した高級ホテルが見える。その奥にはこの街のシンボルでもあるツインタワーがそびえ立つ。
この街のきらびやかさが今はつらい。
望晴は深い溜め息をついた。
(いったん実家に帰ろうかなぁ)
自分には不相応だったのだ。この街も拓斗も。そう思った。
パーソナル・カラーコーディネーターになりたいと考えていたが、こんな自分にはそぐわない夢だと乾いた笑みを浮かべる。
自信がぺちゃんこに凹んで、ここから逃げたくなった。
そのとき、スマートフォンの着信音が聞こえた。
表示を見ると、啓介からだった。
仕事中のはずの彼から電話なんて、なにかあったのかと急いで電話に出る。
「はい、望晴です」
『望晴か? お前、今、どこにいるんだ?』
「え? BCストリートの先の港ですけど」
『港? なんでそんなところに?』
「なんでと言われても……」
まだ啓介に事情を話すには気持ちが落ち着いておらず、望晴は口ごもった。
実家に帰るなら、辞める相談をしなければいけないが、今、話し出したら確実に泣いてしまう。もう少し落ち着いたら話そうと考えた。
そこで話題を変えようと、逆に問いかける。
「そんなことより、なにかご用ですか? 仕事中ですよね?」
『あ、あぁ。えーっと、あー、顧客台帳を知らないか?』
「顧客台帳? いつもの鍵のついた棚にあるはずですが、まさか見当たらないんですか?」
顧客の個人情報の載っている台帳が失くなったとしたら大変だと、望晴は青くなった。
啓介が焦って電話をかけてくるのも理解できる。
「そちらに行って、一緒に探しましょうか?」
『いや、ダメだ! 入れ違……いや、お前はそこにいろ!』
「え?」
強い調子で言われて、望晴は戸惑う。啓介は焦りすぎて混乱しているのだろうかと小首を傾げた。
『あ、えっと台帳がなくなったんじゃなくて、その棚の鍵が見つからないだけだから、わざわざ休みなのに、こっちに来なくてもいい』
なぜか啓介はしどろもどろで、望晴はますます不思議に思う。
「鍵はデスクの左の引き出しにあるはずですけど? 一番上の」
『ちょっと待っててくれ。見てみる』
「はい」
啓介は鍵を探しているようで、ごそごそしている音が聞こえる。
あちこち探してようやく鍵が見つかったと思ったら、今度は来月のシフトの確認をされた。メモがなくなったと言って。
(今必要なのかしら? 明日でいいと思うんだけど)
不可解に思いながらも、手帳を出して間違いがないか確かめる。
啓介はゆっくり一つ一つ確認してきた。
かれこれ十五分以上は電話していて、仕事中なのに大丈夫だろうかと思う。
そのとき――。
(どこに行こう?)
豪邸が立ち並ぶ中をとぼとぼ歩いていく。
心はこんなにどんよりしているのに、空は腹が立つくらいの快晴だ。
ノースエリアを抜けて、櫻坂を下る。
買い物客や観光客などの人混みを避けてあてどなく歩いているうちに、港に行き着いた。
青空を映した海は美しく、そこにはマンションのような大型客船が停泊していた。その中には高級レストランやバーはもちろん、シアターや劇場、カジノ、スパやジムなどの豪華施設が揃っているとテレビ番組で解説していたのを思い出す。
自分には別世界のことだと望晴はそのとき思った。
でも、拓斗と昨日の女性だったら、この豪華客船に乗っていても違和感はない。
(もともと私とは世界が違う人だったのよ)
背後には拓斗の両親と食事した高級ホテルが見える。その奥にはこの街のシンボルでもあるツインタワーがそびえ立つ。
この街のきらびやかさが今はつらい。
望晴は深い溜め息をついた。
(いったん実家に帰ろうかなぁ)
自分には不相応だったのだ。この街も拓斗も。そう思った。
パーソナル・カラーコーディネーターになりたいと考えていたが、こんな自分にはそぐわない夢だと乾いた笑みを浮かべる。
自信がぺちゃんこに凹んで、ここから逃げたくなった。
そのとき、スマートフォンの着信音が聞こえた。
表示を見ると、啓介からだった。
仕事中のはずの彼から電話なんて、なにかあったのかと急いで電話に出る。
「はい、望晴です」
『望晴か? お前、今、どこにいるんだ?』
「え? BCストリートの先の港ですけど」
『港? なんでそんなところに?』
「なんでと言われても……」
まだ啓介に事情を話すには気持ちが落ち着いておらず、望晴は口ごもった。
実家に帰るなら、辞める相談をしなければいけないが、今、話し出したら確実に泣いてしまう。もう少し落ち着いたら話そうと考えた。
そこで話題を変えようと、逆に問いかける。
「そんなことより、なにかご用ですか? 仕事中ですよね?」
『あ、あぁ。えーっと、あー、顧客台帳を知らないか?』
「顧客台帳? いつもの鍵のついた棚にあるはずですが、まさか見当たらないんですか?」
顧客の個人情報の載っている台帳が失くなったとしたら大変だと、望晴は青くなった。
啓介が焦って電話をかけてくるのも理解できる。
「そちらに行って、一緒に探しましょうか?」
『いや、ダメだ! 入れ違……いや、お前はそこにいろ!』
「え?」
強い調子で言われて、望晴は戸惑う。啓介は焦りすぎて混乱しているのだろうかと小首を傾げた。
『あ、えっと台帳がなくなったんじゃなくて、その棚の鍵が見つからないだけだから、わざわざ休みなのに、こっちに来なくてもいい』
なぜか啓介はしどろもどろで、望晴はますます不思議に思う。
「鍵はデスクの左の引き出しにあるはずですけど? 一番上の」
『ちょっと待っててくれ。見てみる』
「はい」
啓介は鍵を探しているようで、ごそごそしている音が聞こえる。
あちこち探してようやく鍵が見つかったと思ったら、今度は来月のシフトの確認をされた。メモがなくなったと言って。
(今必要なのかしら? 明日でいいと思うんだけど)
不可解に思いながらも、手帳を出して間違いがないか確かめる。
啓介はゆっくり一つ一つ確認してきた。
かれこれ十五分以上は電話していて、仕事中なのに大丈夫だろうかと思う。
そのとき――。