かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
 手をつないで仲良く戻ってきた二人を見て、コンシェルジュは目を細めた。

「おかえりなさいませ」
「ご心配をおかけしました」
「とんでもないことです」

 恥ずかしそうに望晴が謝ると、コンシェルジュがカードキーを返してくれる。

「連絡してくれて、助かった」

 拓斗も礼を言う。

「お役に立てて、よかったです」

 コンシェルジュがにこりと微笑んだ。
 彼が拓斗に連絡を取ってくれなかったら、望晴は今ごろまだあてどなくさまよっていたところだろう。誤解も解けないままに。
 望晴はぺこりと頭を下げた。
 走って追っかけてきてくれた拓斗にも感謝のまなざしを向ける。
 同じようなことを想ったのか、拓斗も握った手に力を入れて、微笑んだ。

 エレベーターまでは普通だった拓斗が、部屋に入るなり、望晴を壁に押しつけ、深いキスをしてきた。
 角度を変え、何度も何度も繰り返される。
 激しいキスに翻弄され、望晴はくらくらした。

「……離婚届を見たときには、心臓が止まるかと思った……」

 額同士をくっつけながら、拓斗がささやく。

「ごめんなさい。部屋を掃除していたら見つけてしまって。私も悲しかったです」

 目を潤ませた望晴にまた軽い口づけを落とし、拓斗はそのときのことを説明してくれた。

「コンシェルジュから望晴の様子がおかしいと連絡を受けたんだ。彼がそんな連絡をよこすのはよっぽどだと思って、君に電話した。でも、何回かけても出ないし、嫌な予感がして、家に戻ってみたら、離婚届を発見して――」

 何度かけても望晴には繋がらず、拓斗は彼女の行きそうな場所を当たったらしい。
 はるやカフェやG.rowに。
 啓介が望晴に電話したら繋がった。そこで港だと聞いた拓斗は全速力でそちらに向かったのだ。啓介に引き留めてもらっている間に望晴を捕まえられるよう、必死で走ってきたという。

「あんなに焦って走ったことはない」
「ご、ごめんなさい」
「望晴には僕の気持ちを思い知ってもらわないとな。もう誤解しないように」

 拓斗は色気のあるまなざしを望晴に向ける。
 『覚悟しろ』とも言われたことを思い出して、望晴はかぁっと赤くなった。
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