かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
おかしな依頼
***
「アウターはどうなさいますか?」
これからの季節のものを求められて、望晴は拓斗に尋ねた。
今は十一月初旬なので、だんだん防寒着が必要な時期になる。
彼とはもう二年の付き合いで、昨年コートを買ったのを覚えていた望晴は念のため聞いてみたのだ。
「おすすめがあれば」
「承知いたしました」
目もとに落ちた前髪を掻き上げ、言葉少なく答えた拓斗に、望晴は内心ガッツポーズをした。
実は入荷したときから拓斗に似合いそうだと思っていたステンカラーコートがあったのだ。
彼はスタイルがいいから服を選ぶのも楽しい。
望晴はうきうきして、冬用の服をコーディネートした。もちろん、ステンカラーコートも添えて。
拓斗はいつものように特に感想もなく、全部買い上げていく。
少しは気に入ったとか別のものがいいとか、反応がほしいとは思う。しかし、『先日お買い上げいただいた服はいかがですか?』と話を向けても『問題ない』と言われるだけで、話はそこで終わってしまう。
彼は言いたいことはずけずけ言うが、興味ないことは時間の無駄だと切り捨てるようだ。
短い接客の間でも望晴はそれを感じ取っていた。
(こうやって来てくれるってことは悪くないってことよね)
いいほうに考えて、自分を納得させた。
「ありがとうございました」
拓斗を見送っていると、後ろから声をかけられた。
「すっかり常連さんになってくれたなぁ。逃さないように頼むよ、望晴」
店長であり従兄でもある藤見啓介だった。
大学を中退せざるを得なくなって途方に暮れていた彼女を雇ってくれたのが啓介だった。その彼の役に立っていると思うとうれしくて、望晴は微笑んだ。
「本当ですね。機嫌を損ねないように気をつけます」
拓斗は相変わらず忙しそうで、時間を惜しんでいた。いつも仕事帰りにここ来て、最小限の時間で帰りたがる。
合理的、効率的という言葉が好きなようだ。だから、望晴は拓斗が来たときに待たせないように、日頃から彼のコーディネートを考えるのが癖になっていた。
「望晴を気に入ってるみたいだから大丈夫じゃないかな」
「私じゃなくて、服を気に入ってくれてるんだと思います」
「服には興味なさそうじゃないか。ある意味、望晴に貢いでるみたいに見えるな」
からかうように言われて、望晴は少し頬を染めた。そして、ちょっと彼をにらむ。
「由井様はそういうタイプじゃないですよ。それに、私だってそんな気ないのを、啓介さんも知ってるでしょ?」
望晴の言葉に啓介は気づかうようなまなざしになった。
「……まだ、だめなのか?」
「前よりはよくなってますが、そもそも色恋沙汰には興味はないんです」
「そうか」
「人のことより、まず自分のことじゃないですか?」
望晴は二十八だが、啓介は三十五歳だ。彼は長く同棲している彼女がいる癖に結婚はまだだった。
話題を変えるように、望晴が切り返すと、啓介は「うへぇ」と言って逃げていった。
「アウターはどうなさいますか?」
これからの季節のものを求められて、望晴は拓斗に尋ねた。
今は十一月初旬なので、だんだん防寒着が必要な時期になる。
彼とはもう二年の付き合いで、昨年コートを買ったのを覚えていた望晴は念のため聞いてみたのだ。
「おすすめがあれば」
「承知いたしました」
目もとに落ちた前髪を掻き上げ、言葉少なく答えた拓斗に、望晴は内心ガッツポーズをした。
実は入荷したときから拓斗に似合いそうだと思っていたステンカラーコートがあったのだ。
彼はスタイルがいいから服を選ぶのも楽しい。
望晴はうきうきして、冬用の服をコーディネートした。もちろん、ステンカラーコートも添えて。
拓斗はいつものように特に感想もなく、全部買い上げていく。
少しは気に入ったとか別のものがいいとか、反応がほしいとは思う。しかし、『先日お買い上げいただいた服はいかがですか?』と話を向けても『問題ない』と言われるだけで、話はそこで終わってしまう。
彼は言いたいことはずけずけ言うが、興味ないことは時間の無駄だと切り捨てるようだ。
短い接客の間でも望晴はそれを感じ取っていた。
(こうやって来てくれるってことは悪くないってことよね)
いいほうに考えて、自分を納得させた。
「ありがとうございました」
拓斗を見送っていると、後ろから声をかけられた。
「すっかり常連さんになってくれたなぁ。逃さないように頼むよ、望晴」
店長であり従兄でもある藤見啓介だった。
大学を中退せざるを得なくなって途方に暮れていた彼女を雇ってくれたのが啓介だった。その彼の役に立っていると思うとうれしくて、望晴は微笑んだ。
「本当ですね。機嫌を損ねないように気をつけます」
拓斗は相変わらず忙しそうで、時間を惜しんでいた。いつも仕事帰りにここ来て、最小限の時間で帰りたがる。
合理的、効率的という言葉が好きなようだ。だから、望晴は拓斗が来たときに待たせないように、日頃から彼のコーディネートを考えるのが癖になっていた。
「望晴を気に入ってるみたいだから大丈夫じゃないかな」
「私じゃなくて、服を気に入ってくれてるんだと思います」
「服には興味なさそうじゃないか。ある意味、望晴に貢いでるみたいに見えるな」
からかうように言われて、望晴は少し頬を染めた。そして、ちょっと彼をにらむ。
「由井様はそういうタイプじゃないですよ。それに、私だってそんな気ないのを、啓介さんも知ってるでしょ?」
望晴の言葉に啓介は気づかうようなまなざしになった。
「……まだ、だめなのか?」
「前よりはよくなってますが、そもそも色恋沙汰には興味はないんです」
「そうか」
「人のことより、まず自分のことじゃないですか?」
望晴は二十八だが、啓介は三十五歳だ。彼は長く同棲している彼女がいる癖に結婚はまだだった。
話題を変えるように、望晴が切り返すと、啓介は「うへぇ」と言って逃げていった。