かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
終業時間を待ち遠しく思っていると、あと三十分というところで、拓斗が現れた。
「ほら、旦那さんが来たぞ。今日はもういいから帰れ」
啓介がそう言ってくれる。
それは有り難いが、なぜ拓斗が来たのかわからなかった望晴は彼に問うように呼び掛けた。
「拓斗さん?」
「お疲れさま、望晴。啓介さん、連絡してくれて、ありがとうございます」
「えっ、連絡?」
望晴は拓斗と啓介の顔を見比べた。
「君が疲れているから迎えにきてやってくれと連絡をくれたんだ」
先日の騒ぎをきっかけに連絡先を交換したらしい。
「そんな、すみません。啓介さん、どうして!」
彼女の疲労の色が濃いことを心配してくれたようだが、多忙な拓斗の手をわずらわせてしまったことのほうが申し訳なかった。
拓斗はなだめるようにいたわるように、彼女の頬を指先でなでた。
「妻の面倒は夫がみるものだ。疲れた顔をしている」
望晴の頬に、ぶわっと一気に血が上る。
動揺していたら、啓介がさらにうろたえることを言った。
「そういえば、由井さん、結婚式はいつにするんですか?」
「ちょ、ちょっと啓介さん、なに言ってるんですか! 拓斗さん、気にしないでくださいね」
慌てて望晴が啓介の口を塞ぐ。
拓斗が顔色を変えた。
「結婚式……!? 望晴、すまない。すっかり頭から抜け落ちていた。考えたら、結婚指輪も買うのを忘れている」
額に手を当て、落ち込んだ様子で拓斗が謝ってきた。
結婚指輪は婚約指輪を買うときに勧められたのだが、そのときは偽造の婚約だったから、断っていたのだ。
彼が故意に避けていたのではないとわかって、望晴はほっとした。
「大丈夫です。私も忘れてましたから」
望晴がフォローを入れると、あきれたように啓介が言った。
「ふつう、そんなこと忘れるか?」
「入籍して愛しい望晴を手に入れて、安心してたんだ」
拓斗がさらりとそんなことを口にする。
啓介が望晴に耳打ちした。
「お前の旦那はしらふでよくあんなセリフを言えるな?」
赤くなった望晴を拓斗は引っ張り、啓介から離した。
「従兄だとしても、近すぎる」
ムッとした顔で彼女を腕に囲った拓斗を、啓介が笑って、望晴はますます赤くなった。
あとからわかったことだが、両親、祖父母のどこからも結婚式の話が出なかったのは、入籍のときに強引すぎたとの反省から式ぐらいは二人のタイミングにさせてあげようという配慮だった。実際は催促を控えただけで、ジリジリ待っていたらしい。
「結婚式をしよう。僕は君のウェディングドレス姿を見たい。君はどうだ?」
拓斗はあれから、こんなふうに望晴の意見を聞いてくれるし、自分の意見もはっきり伝えてくれるようになった。
ただ、誤解を招かないようにと気をつけているせいか、その言葉はとてもストレートで、しばしば望晴を赤面させる。
「私もしたいです。拓斗さんの正装を見たいです」
頬を染めながらも、望晴が返す。
拓斗は彼女の左手を取り、薬指をなでた。
「指輪は明日買いに行こう」
「明日ですか?」
「君は休みなんだろう?」
せっかちな拓斗らしくて、望晴は笑ってしまった。
「はいはい。イチャイチャの続きは、さっさと帰ってからしてください」
すっかりバカップルだなと、啓介は笑って、二人を急かした。
「行こう」
啓介に軽く会釈して、拓斗が望晴の手を引いた。
指を絡めて握り、歩き出す。
「疲れているだろうから、夕食は食べて帰るか、買って帰ろう」
「はい。それじゃあ、買って帰りたいです」
「わかった」
二人はデリカ店で惣菜を買って、家に帰った。
「ほら、旦那さんが来たぞ。今日はもういいから帰れ」
啓介がそう言ってくれる。
それは有り難いが、なぜ拓斗が来たのかわからなかった望晴は彼に問うように呼び掛けた。
「拓斗さん?」
「お疲れさま、望晴。啓介さん、連絡してくれて、ありがとうございます」
「えっ、連絡?」
望晴は拓斗と啓介の顔を見比べた。
「君が疲れているから迎えにきてやってくれと連絡をくれたんだ」
先日の騒ぎをきっかけに連絡先を交換したらしい。
「そんな、すみません。啓介さん、どうして!」
彼女の疲労の色が濃いことを心配してくれたようだが、多忙な拓斗の手をわずらわせてしまったことのほうが申し訳なかった。
拓斗はなだめるようにいたわるように、彼女の頬を指先でなでた。
「妻の面倒は夫がみるものだ。疲れた顔をしている」
望晴の頬に、ぶわっと一気に血が上る。
動揺していたら、啓介がさらにうろたえることを言った。
「そういえば、由井さん、結婚式はいつにするんですか?」
「ちょ、ちょっと啓介さん、なに言ってるんですか! 拓斗さん、気にしないでくださいね」
慌てて望晴が啓介の口を塞ぐ。
拓斗が顔色を変えた。
「結婚式……!? 望晴、すまない。すっかり頭から抜け落ちていた。考えたら、結婚指輪も買うのを忘れている」
額に手を当て、落ち込んだ様子で拓斗が謝ってきた。
結婚指輪は婚約指輪を買うときに勧められたのだが、そのときは偽造の婚約だったから、断っていたのだ。
彼が故意に避けていたのではないとわかって、望晴はほっとした。
「大丈夫です。私も忘れてましたから」
望晴がフォローを入れると、あきれたように啓介が言った。
「ふつう、そんなこと忘れるか?」
「入籍して愛しい望晴を手に入れて、安心してたんだ」
拓斗がさらりとそんなことを口にする。
啓介が望晴に耳打ちした。
「お前の旦那はしらふでよくあんなセリフを言えるな?」
赤くなった望晴を拓斗は引っ張り、啓介から離した。
「従兄だとしても、近すぎる」
ムッとした顔で彼女を腕に囲った拓斗を、啓介が笑って、望晴はますます赤くなった。
あとからわかったことだが、両親、祖父母のどこからも結婚式の話が出なかったのは、入籍のときに強引すぎたとの反省から式ぐらいは二人のタイミングにさせてあげようという配慮だった。実際は催促を控えただけで、ジリジリ待っていたらしい。
「結婚式をしよう。僕は君のウェディングドレス姿を見たい。君はどうだ?」
拓斗はあれから、こんなふうに望晴の意見を聞いてくれるし、自分の意見もはっきり伝えてくれるようになった。
ただ、誤解を招かないようにと気をつけているせいか、その言葉はとてもストレートで、しばしば望晴を赤面させる。
「私もしたいです。拓斗さんの正装を見たいです」
頬を染めながらも、望晴が返す。
拓斗は彼女の左手を取り、薬指をなでた。
「指輪は明日買いに行こう」
「明日ですか?」
「君は休みなんだろう?」
せっかちな拓斗らしくて、望晴は笑ってしまった。
「はいはい。イチャイチャの続きは、さっさと帰ってからしてください」
すっかりバカップルだなと、啓介は笑って、二人を急かした。
「行こう」
啓介に軽く会釈して、拓斗が望晴の手を引いた。
指を絡めて握り、歩き出す。
「疲れているだろうから、夕食は食べて帰るか、買って帰ろう」
「はい。それじゃあ、買って帰りたいです」
「わかった」
二人はデリカ店で惣菜を買って、家に帰った。