かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
「店長……」
相談するように啓介を呼ぶ。
当然ながら、こんな変な依頼を受けたことはない。
啓介は即座に断るかと思ったらそうはせず、拓斗に尋ねた。
「失礼ですが、由井様のお住まいはどちらなのですか?」
「あぁ、すぐそこのノースエリアだ」
「ノースエリア!」
紛れもない高級住宅街だ。
(やっぱり由井様ってセレブなのね!)
ノースエリアは住民や関係者以外は立ち入り禁止で、守衛が門を守っていると聞く。
そんな高級な場所を見てみたいかもと、望晴は好奇心が湧いた。なかなかあの場所に入る機会はないのだ。
興味を引かれた望晴に対し、拓斗は首を傾げた。
「コーディネートし直してもらえないなら、今ある分を捨てて、買い直すしかない。あぁ、君たちにとってはそっちのほうがいいか。僕にとってもそれが手っ取り早いかな」
なぜ気づかなかったのかというように、拓斗はこともなげに言う。それを聞いて黙っておられず、望晴は叫んだ。
「だめですよ! 捨てるなんて!」
彼には愛着のない服でも、彼女にとっては大事な服だ。
それに軽く百万円以上になる服をコーディネートできないというだけの理由で捨てるなんてもったいなさすぎると思った。
望晴の勢いに押されて、髪を掻き上げた拓斗が言い訳のようにつぶやく。
「言っても、今季の分だけだから十セットもないぐらいだが……」
「それでも、捨てるなんてだめです!」
「それじゃあ、コーディネートしに来てくれるのか?」
期待のまなざしを向けられて、望晴は考えた。
二年の付き合いで、拓斗は良識のある人間だと感じていた。望晴に気のある素振りもない。
(変なことにはならないわよね?)
ふと見ると、頼むよと上客を逃したくない啓介が目で訴えかけてくる。
その視線を感じつつ、今度は自分の心に聞いてみた。
(仕事だし、大丈夫よね?)
今のところ、拓斗に嫌悪感を覚えることはない。
望晴はうなずいた。
「通常は絶対に行わないサービスですが、他ならぬ由井様のご依頼ですので、お引き受けいたします」
こんなことを気軽に頼まれても困ると思ったので、敢えて恩着せがましく言った。
「ありがとう」
拓斗は表情を緩める。
啓介も安心した顔になった。望晴が断ったら、拓斗が怒って、この店を見限ったら困ると思っていたのだろう。
「それじゃあ、今からいいか?」
「今からですか?」
「今日を逃すと、来週末まで時間が取れないんだ」
彼らしい拙速さだ。
望晴が啓介に視線を送ると、彼はうなずいた。
「いいですよ。店番は私がいるから、西原さんは由井様をお願いします」
「わかりました」
「助かるよ」
拓斗が軽く頭を下げた。
こうして、急遽、望晴は彼の家に行くことになった。
相談するように啓介を呼ぶ。
当然ながら、こんな変な依頼を受けたことはない。
啓介は即座に断るかと思ったらそうはせず、拓斗に尋ねた。
「失礼ですが、由井様のお住まいはどちらなのですか?」
「あぁ、すぐそこのノースエリアだ」
「ノースエリア!」
紛れもない高級住宅街だ。
(やっぱり由井様ってセレブなのね!)
ノースエリアは住民や関係者以外は立ち入り禁止で、守衛が門を守っていると聞く。
そんな高級な場所を見てみたいかもと、望晴は好奇心が湧いた。なかなかあの場所に入る機会はないのだ。
興味を引かれた望晴に対し、拓斗は首を傾げた。
「コーディネートし直してもらえないなら、今ある分を捨てて、買い直すしかない。あぁ、君たちにとってはそっちのほうがいいか。僕にとってもそれが手っ取り早いかな」
なぜ気づかなかったのかというように、拓斗はこともなげに言う。それを聞いて黙っておられず、望晴は叫んだ。
「だめですよ! 捨てるなんて!」
彼には愛着のない服でも、彼女にとっては大事な服だ。
それに軽く百万円以上になる服をコーディネートできないというだけの理由で捨てるなんてもったいなさすぎると思った。
望晴の勢いに押されて、髪を掻き上げた拓斗が言い訳のようにつぶやく。
「言っても、今季の分だけだから十セットもないぐらいだが……」
「それでも、捨てるなんてだめです!」
「それじゃあ、コーディネートしに来てくれるのか?」
期待のまなざしを向けられて、望晴は考えた。
二年の付き合いで、拓斗は良識のある人間だと感じていた。望晴に気のある素振りもない。
(変なことにはならないわよね?)
ふと見ると、頼むよと上客を逃したくない啓介が目で訴えかけてくる。
その視線を感じつつ、今度は自分の心に聞いてみた。
(仕事だし、大丈夫よね?)
今のところ、拓斗に嫌悪感を覚えることはない。
望晴はうなずいた。
「通常は絶対に行わないサービスですが、他ならぬ由井様のご依頼ですので、お引き受けいたします」
こんなことを気軽に頼まれても困ると思ったので、敢えて恩着せがましく言った。
「ありがとう」
拓斗は表情を緩める。
啓介も安心した顔になった。望晴が断ったら、拓斗が怒って、この店を見限ったら困ると思っていたのだろう。
「それじゃあ、今からいいか?」
「今からですか?」
「今日を逃すと、来週末まで時間が取れないんだ」
彼らしい拙速さだ。
望晴が啓介に視線を送ると、彼はうなずいた。
「いいですよ。店番は私がいるから、西原さんは由井様をお願いします」
「わかりました」
「助かるよ」
拓斗が軽く頭を下げた。
こうして、急遽、望晴は彼の家に行くことになった。