かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
「由井様、終わりました」
すべてをコーディネートし終えた望晴は、拓斗を呼んだ。
彼はクローゼットを見るなり、不満げに言う。
「なんだ。変わってないじゃないか。どうして袋を使わないんだ?」
「着回しできるように分けたんです。見てください。この縦列のもの同士を組み合わせれば、変なコーディネートにならないようにしてあります。洗った後、また同じ棚に戻していただくと、コーディネートが崩れないかと思います」
「なるほど、合理的だ。さすが西原さんだな。頼んでよかった」
一転、満足そうな顔になった拓斗が褒めてくれた。
(初めて褒められたわ!)
拓斗が今までそう思ってくれていたのがわかって、望晴はうれしくなる。
笑顔でうなずいた望晴は提案してみた。
「喜んでいただけて、私もうれしいです。ついでなので、他の棚も同じようにしましょうか?」
自分のところの服がゴミ袋に入っているのを見て、むずむずと落ち着かない気分になっていたのだ。服たちをゴミ袋から救出したいと。
「いいのか? それは助かる」
「それでは――」
作業に戻ろうとした彼女を拓斗は止めた。
「その前に休憩しないか? コーヒーでも淹れるよ」
「ありがとうございます」
「インスタントだけどな」
そう言った拓斗に、望晴はくすっと笑った。
「もしかして、ドリップする時間が惜しいとか?」
「よくわかったな。どうやら僕は待つのが苦手のようで」
拓斗は苦笑して答えた。
冗談で言ったのに肯定されて、望晴はまた笑った。
「そこにかけててくれ」
黒の革張りソファーに誘導された望晴は、そこに浅く腰かけた。
急に自分が場違いな気がして、緊張してきた。
アイランドキッチンへ向かった拓斗はインスタントコーヒーを作って、すぐ持ってきてくれる。
ガラステーブルの上に、バランス栄養食品が積み重なっていて、それをどけて、カップを置いた。
(まさか、これが食事ってことないわよね?)
気にはなって、思わず聞いてみる。
「由井様はお料理とかされるんですか?」
「いや、できない。そもそも家では極力なにもしたくないんだ。普段は家政婦が作り置いたものを食べている。でも、今回の件で、急に家政婦を首にしたから、次の手配が間に合ってなくて、昨日はこれを食べた」
拓斗はテーブルの上のバランス栄養食品を指した。
やはりこれが食事代わりだったらしい。よく見ると、空箱も置いたままだった。
彼は外では時間を惜しんでまでバリバリと働いているのに、家に帰るとなにもやる気が起きないのだと続けた。
極端な性格だと望晴は目を丸くする。
「身体に悪そうですね」
「食べられればなんでもいい」
彼らしい答えが返ってきて、望晴はなんと言ったらいいかわからず、沈黙した。
食べることの好きな彼女にとっては信じられない食生活に絶句したのだ。
「そういう君は料理ができるのか?」
「まぁ、自分が食べるくらいなら作ります」
「そうか」
会話が途切れて困ったのか、拓斗がテレビをつけた。
夕方のニュースが流れる。
いつの間にかいい時間になっていた。
「……続いてのニュースです。都内の丸山ハイツの三○三号室から火が出て、建物が全焼しました」
「えっ?」
聞こえてきたアナウンサーの言葉に聞き覚えのある名前が出てきて、望晴はまじまじとテレビを見た。
「幸い、すでに火は消し止められ、類焼はありません。警察によると、留守宅の火の不始末が原因だと思われます。住民は全員外に逃げ、人的被害はないようです」
(ウソでしょう?)
テレビに映っていたのは、まぎれもなく自分のアパートだった。
慌てて、カバンの中に入れっぱなしだったスマホを取り出してみてみる。
大家さんから何度か着信があったようだ。
音を消していたから、まったく気づかなかった。
「知り合いのマンションなのか?」
「私の……なんです……」
心配そうに聞いてきた拓斗に、望晴は呆然としたまま、答えた。テレビは次のニュースを映しているのに、目が離せなくて、ぼんやりと画面を見つめる。
「君のマンションなのか!?」
うなずいた望晴を見て、拓斗は立ち上がった。
すべてをコーディネートし終えた望晴は、拓斗を呼んだ。
彼はクローゼットを見るなり、不満げに言う。
「なんだ。変わってないじゃないか。どうして袋を使わないんだ?」
「着回しできるように分けたんです。見てください。この縦列のもの同士を組み合わせれば、変なコーディネートにならないようにしてあります。洗った後、また同じ棚に戻していただくと、コーディネートが崩れないかと思います」
「なるほど、合理的だ。さすが西原さんだな。頼んでよかった」
一転、満足そうな顔になった拓斗が褒めてくれた。
(初めて褒められたわ!)
拓斗が今までそう思ってくれていたのがわかって、望晴はうれしくなる。
笑顔でうなずいた望晴は提案してみた。
「喜んでいただけて、私もうれしいです。ついでなので、他の棚も同じようにしましょうか?」
自分のところの服がゴミ袋に入っているのを見て、むずむずと落ち着かない気分になっていたのだ。服たちをゴミ袋から救出したいと。
「いいのか? それは助かる」
「それでは――」
作業に戻ろうとした彼女を拓斗は止めた。
「その前に休憩しないか? コーヒーでも淹れるよ」
「ありがとうございます」
「インスタントだけどな」
そう言った拓斗に、望晴はくすっと笑った。
「もしかして、ドリップする時間が惜しいとか?」
「よくわかったな。どうやら僕は待つのが苦手のようで」
拓斗は苦笑して答えた。
冗談で言ったのに肯定されて、望晴はまた笑った。
「そこにかけててくれ」
黒の革張りソファーに誘導された望晴は、そこに浅く腰かけた。
急に自分が場違いな気がして、緊張してきた。
アイランドキッチンへ向かった拓斗はインスタントコーヒーを作って、すぐ持ってきてくれる。
ガラステーブルの上に、バランス栄養食品が積み重なっていて、それをどけて、カップを置いた。
(まさか、これが食事ってことないわよね?)
気にはなって、思わず聞いてみる。
「由井様はお料理とかされるんですか?」
「いや、できない。そもそも家では極力なにもしたくないんだ。普段は家政婦が作り置いたものを食べている。でも、今回の件で、急に家政婦を首にしたから、次の手配が間に合ってなくて、昨日はこれを食べた」
拓斗はテーブルの上のバランス栄養食品を指した。
やはりこれが食事代わりだったらしい。よく見ると、空箱も置いたままだった。
彼は外では時間を惜しんでまでバリバリと働いているのに、家に帰るとなにもやる気が起きないのだと続けた。
極端な性格だと望晴は目を丸くする。
「身体に悪そうですね」
「食べられればなんでもいい」
彼らしい答えが返ってきて、望晴はなんと言ったらいいかわからず、沈黙した。
食べることの好きな彼女にとっては信じられない食生活に絶句したのだ。
「そういう君は料理ができるのか?」
「まぁ、自分が食べるくらいなら作ります」
「そうか」
会話が途切れて困ったのか、拓斗がテレビをつけた。
夕方のニュースが流れる。
いつの間にかいい時間になっていた。
「……続いてのニュースです。都内の丸山ハイツの三○三号室から火が出て、建物が全焼しました」
「えっ?」
聞こえてきたアナウンサーの言葉に聞き覚えのある名前が出てきて、望晴はまじまじとテレビを見た。
「幸い、すでに火は消し止められ、類焼はありません。警察によると、留守宅の火の不始末が原因だと思われます。住民は全員外に逃げ、人的被害はないようです」
(ウソでしょう?)
テレビに映っていたのは、まぎれもなく自分のアパートだった。
慌てて、カバンの中に入れっぱなしだったスマホを取り出してみてみる。
大家さんから何度か着信があったようだ。
音を消していたから、まったく気づかなかった。
「知り合いのマンションなのか?」
「私の……なんです……」
心配そうに聞いてきた拓斗に、望晴は呆然としたまま、答えた。テレビは次のニュースを映しているのに、目が離せなくて、ぼんやりと画面を見つめる。
「君のマンションなのか!?」
うなずいた望晴を見て、拓斗は立ち上がった。