那智くんがメガネを外したら

あの日あなたと出会って



中学3年生の受験の年、




雪が降る12月、クリスマス







「ごめん、元カノとヨリを戻したいから別れて欲しい」



私は当時付き合っていた彼氏にクリスマスデートの
待ち合わせ場所で突然別れを告げられた






頭が真っ白になって涙も出なくて、
雪が降る中遠ざかっていく彼の後ろ姿をただ見つめることしかできなかったんだ






その時受けようとしてた高校は彼と同じところで、

「絶対に受かって2人で放課後いっぱい色んなところいこうね」

と話しながら図書室で一緒に勉強頑張ってたのに







まず元カノとヨリを戻したいって何?
浮気してたってこと?




そんな考えが浮かんだのは一瞬で、
ただただ彼との良い思い出だけが頭をよぎって
最低なことをされたのに彼を悪く思えない自分が嫌で
気付いたらカップルだらけの街並みを走り出していた


息切れなんか気にならない、何も考えたくない







ドンッ!






「っ!ごめんなさい…」





誰かにぶつかって尻もちを着いた



差し出された手の方を向くと
私と同じくらいの年の男の子だった




見るからに背が高くて顔が小さい彼は
眼鏡をかけていてどんな表情をしているのかわからない







ただ、彼の目を覆うフワフワした真っ黒の髪の毛は
真っ白な雪に反して、とても綺麗だと思った













「大丈夫?」







彼の低くて甘い声が
私の絶望しか感じられなかった世界に入り込んでくる







真っ黒の綺麗な髪の毛に心地の良い甘い声
彼はどこの中学校なのかな、







そんなことを考えながら
どのくらいボーッとしていたんだろう




気が付くと、尻もちを着く私と同じ目線になるよう
男の子がしゃがんでいた






「君、怪我は?」






髪の毛とメガネで表情こそ見えないけれど
心配そうに聞いてくる彼に




「ぶつかってしまってごめんなさい、大丈夫です」





とだけ答えた。








「なら良かった」と、
ほんの少しだけ口角を上げて言った彼を見て、
この人は心が綺麗なんだろうなと思った。








「なんで泣きそうな顔してるの?」






彼から言われてドキッとした




心配そうな彼を見て、話したくなった
誰でもいいから私の話を聞いて欲しかった








「あのっ、私、さっき彼氏に振られちゃって…
元カノとヨリ戻すんだって、えへへ」







笑いたくないのに、自分が惨めに思えて、
なぜだかかっこ悪く思えて、




でも彼は、



「笑わなくていい、無理して笑うと、もっと辛い」







顔を歪めながらそう言ってくれた









「…っ、ほんと…に好きでっ、だいすき…だったの…に
もうっどうした…らいいかっ…わかんないよっ」








彼があまりに優しく慰めてくれるものだから
涙が溢れて止まらなかった。







彼は私の頭に手を置いて、
撫でるわけでもなく








「大丈夫」







そう言ってくれた





「大丈夫」の一言、それだけなのに
それだけで、大丈夫な気がしたのはなぜだろう







「あなた、名前は?」






さっきまで泣いていたはずの私が
こんなことを聞くもんだから少し驚く彼は






「那智、洲崎那智です、君は?」








そう答えた。







「西宮うい!!
なちくん!また会える?」










「きっと会えるよ」










とだけ言って那智くんは去っていった



なちくん、なちくん、なちくん



さっきまでの暗い考えが一気に吹き飛ぶほど
私の頭の中はもうすでに那智くんでいっぱいになっていた







「笑わなくていい」
そう言った彼は、なんでか私よりも苦しそうで、


初対面の私のためにそんな顔をしてくれた彼が
すごく、すごく





好きだと思った。










彼が去った後、足元に1枚のパンフレットが落ちていた


さっきまではなかったはず…
那智くんが落とした?





「光仙高校?ってあの難関校…?」







那智くんはそこを受けるのだろうか、
頭の良い花蓮は光仙高校を受験するって言ってたっけか










決めた。
私、光仙高校を受験する。










本当に那智くんが受験するかも定かじゃないのに、
この高校に入ったら何故か会える気がした











ねえなちくん、



あなたに出会えて




「大丈夫」




って言ってもらえて






あなたのやさしい手と
単調だけど優しい言葉に
すっごく励まされたよ




次会えた時は
笑顔で「ありがとう」って伝えたい










中学3年生、クリスマス





彼氏に振られて最悪だったはずの日に


また会えるかもわからない


好きな人が出来ました。
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