本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 本当に、私はいったいなにがしたいんだろう。

 自分のことをずっと真面目で落ち着いたタイプだと思っていた。それなのに、圭君が相手だとなぜかいつも予想外なことをしてしまう。子どもっぽいにもほどがある。

「圭君が今まで付き合ってきた女性(ひと)達は、こんなことしなかったでしょうね」

 無意識に思考が口からこぼれ、ハッとする。

「いや、えっと今のは」
「それって焼きもち?」
「ち、違うわよ」
「残念。そうだったらいいと思ったのに」
「なっ……」

 じわじわと顔が熱くなっていく。

「もう大丈夫だからありがとう」

 この状況自体も恥ずかしくなり、いそいで彼から離れようとしたとき、背中に回された彼の腕がぎゅっと締まった。

「お、おにぃ」
「俺は妬いたよ」

 低い声に目を見開く。いったいなにに? まったく思い当たることがない。そもそも彼が私のことで嫉妬などするはずもない。
 聞き間違えかな。そう思ったとき、彼が「ふぅ」とため息をついた。

「香ちゃんの失恋の相手ってあの人だろう? 今日一緒に庁舎から出てきた」
「え! 見てたの」

「やっぱり」とつぶやいた声に、失恋相手を肯定したことに気づく。

「遠目だったけど、見るからに仕事のできるバリバリのエリート外交官だと伝わってきた。そうか、あれが香ちゃんの」
「圭君だって負けてないわ! バリバリのエリート国際弁護士じゃない。仕事ができてかっこよくて、エスコートもスマートなのに爽やかな大人で」

 圭君が続けようとした言葉を慌てて遮り、息つく間もなくまくし立てていると、彼が「ぷっ」と噴き出す。そこでやっと私は言わなくていいことまで言ってしまったことに気づいた。
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