本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「あんまり煽るな。どうなっても知らないぞ」

 理性が利かなくなる、とうなるように続けた彼のどこか怒ったような声に、胸が大きく高鳴った。

 優しくなくていい。爽やかでなくてもいい。私を欲しがり余裕をなくしている彼が見てみたい。
 ありのままの彼が知りたい。

 ああ、そうか。私、彼のことがすきなんだ。

 彼と一緒にいるのがうれしいのも、彼の何気ない仕草にドキドキするのも、遠い昔に置いてきた初恋の名残だと思っていた。

 だけどそうじゃない。〝今の私〟が〝今の彼〟をすきになったのだ。

 子どもの頃は一緒にいたのに、成長と共に離れてしまった私達は、あのシンガポールでの再会がなければいったいどうなっていただろう。
 きっと彼は私でない誰かと結婚し、私は相変わらず仕事だけに邁進する日々を送っていたに違いない。
 今こうして触れ合っていられるのは、あの再会があったからだ。

 もう二度と離れたくない。このままずっと一緒にいたい。
 
 たくましい背中に腕を回し、彼を見上げる。

「それでもいいわ」

 彼は思い切り目を見張った後、私を抱き上げバスルームを後にした。
  

 この夜、『どうなっても知らない』という言葉通り、彼は私を翻弄し尽くした。
 
 数えきれないほどの高みに昇りつめ、意識が薄れるたびに新たな刺激を加えられ引き戻される。
 やっと完全に意識を手離すことができたのは、都会の夜景が見えると思っていた窓の外が薄っすらと白み始めた頃だった。

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