本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 私の首席への想いは、恋というより憧れ――いや、崇拝だった。
 彼以上にすばらしい男性なんてこの世に存在しないと思い込み、外交官としての彼の仕事の邪魔をするものは、たとえそれが自分でも許せなかった。帰国して早々、彼に群がる女性職員達を見て苦々しい気持ちでいっぱいだった。

 首席は米国にいたときと変わらず粉をかけてくる女性達をまったく相手にしなかった。そのことにほっとすると同時に、彼の方から話しかけられるたびに優越感に浸っていたりしたことは、今思い出しても床をのたうち回りたくなる。

 そんなときだった。彼女と遭遇したのは。

 最初は、子持ちの女が首席にまとわりついているのだと思った。けれどそれまで見たことのない顔を彼女に向けた首席に焦りを感じ始め、当たり前のように彼のそばで笑う彼女に腹を立てた。

〝彼の仕事がどんなにすばらしいものか、知りもしないくせに〟
〝子守りなんかで彼の貴重な時間を奪わないで〟

 今思えば、なんと傲慢で独り善がりだったのだろう。 
 首席が自分の時間をどう使おうと、誰と過ごそうと私がとやかく言う権利なんてないのだ。

 今日は彼女に、直接謝るいい機会だと思った。顔も見ずに伝言だけで謝罪を済ませてしまったことが、心のどこかに小骨のように引っかかっていたのだ。

 卵焼きをレクチャーしてもらう前に、きちんと筋を通さなければ。

 もしかしたら私を呼び出したのは、あちらからもの申したいことがあったからかもしれない。もしそうだとしたら、なにを言われても真摯に受け止めて頭を下げよう。
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