本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 エレベーターを降りた私は、玄関扉の前で呼び鈴を押す。ほぼ待つことなく扉が開いた。

「いらっしゃい。よく来たね」
「本日はお招きいただきありがとうございます」

 何事もなかったかのように頭を下げると、「暑かっただろう、さあどうぞ」と言われる。お邪魔しますと中へ入り、モダンな玄関ホールから廊下の奥へと案内される。ドアを開けると、全面ガラス張りの開放感あふれる空間が目に飛び込んできた。

 圭君のマンションに引っ越したときも、その豪華さにかなり圧倒されたが、ここも負けていない。思わず「素敵」と漏らしたら、「ありがとう」と返って来た。

「そう言えば奥様は……」

 卵焼きを教えてもらいに来たのに、肝心な先生の姿が見あたらない。きょろきょろとあたりを見回すと、後ろからパタパタと小さな足音がする。振り向くとパンダのぬいぐるみを抱えた小さな男の子が足もとをすり抜ける。結城首席の足に思いきり抱き着いた。

「ぱぱぁっ」
「お、たっくん。起きたのか」

 首席が足元にくっついている子を抱き上げた。黒目がちな丸い瞳と目が合う。瞬間、逃げるように顔を逸らされた。見たところ二歳くらいなので、きっと人見知りなのだろう。五歳の姪がこれくらいの頃はそうだったなと懐かしく思いながら、寝ぐせのついた柔らかな髪を見つめる。

「いらっしゃいませ」

 弾かれるように振り向いたら、廊下の真ん中にあるドアから黒髪の女性が出てきた。
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