本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 私よりひとつふたつ年下の彼女は、華奢な体にふわりとした淡いクリーム色のワンピースがよく似合っている。今日のレッスン講師、結城首席の奥様のさやかさんだ。

 反射的に背筋がぴしりと伸びた。

「お言葉に甘えて厚かましくもお伺いしてしまいました。せっかくのご家族でお過ごしのところお邪魔してしまい申し訳ございません。本日はどうぞよろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げると、「そんな、頭を上げてください」と焦ったような声がする。

「こちらこそ、お忙しい中わざわざ起こしくださりとてもうれしいです。私なんかで務まるか不安ですが、一生懸命がんばりますね」

 両手を握って意気込む彼女に、がんばるのは私の方ですからと言えば、じゃあ一緒にがんばりましょうと返ってくる。はい、と返事をしたところで、隣からプッと小さく吹き出す音がした。

「ふたりとも、こんな所ではなんだから中へ入ろうか」
「あっ」

 さやかさんと声が重なり、赤くなった顔を軽く伏せながら、勧められたソファーへ腰かける。すぐ目の前の全面窓の向こうには、ビル群と夏空が広がっている。

「お外は暑かったですよね? お飲み物はアイスティでも大丈夫ですか?」
「はい。あ! お構いなく」

 窓から顔をさやかさんの方へ顔を戻したが、彼女は自分達も飲もうと思っていたところだからと言ってキッチンへと行こうとする。

「さやか。俺が準備するから、きみは座っていて」

 聞こえた声にピタリと動きを止める。さっき私と話していたときとは別人のように甘く艶やかな声だ。
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