本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
櫂人(かいと)さん。でも私が」
「今日の俺はきみのアシスタントだよ。先生はきみなんだ」
「先生だなんて、そんな……からかわないでください」
「からかったわけじゃないが、照れるきみもかわいいな」

思わず耳を疑うほどの甘い言葉の数々を口にした首席に、さやかさんは真っ赤になってうつむいてしまった。そんな彼女を見て蕩けそうな笑みを浮かべ瞳を細める。

「たっくん、ママをよろしくな」

 息子さんの頭をポンっと撫でた手でさやかさんの頬をひと撫でしてからキッチンに入って行った。

 はたで見ているこちらが妙にドギマギして変な汗が出そう。中身は普通の会話なのに、まるで(ねや)睦言(むつごと)を盗み聞きした気分だ。今さらながら、このふたりの間に割って入ろうなんて無謀なことをしなくてよかったと実感する。

 ソファーセットに敷かれたラグに直接座ったさやかさんには、拓翔(たくと)君がずっとしがみついている。こちらが気になるのかときどき視線を感じるが、目が合うとすぐに顔を背けられるのでなるべく見ないようにする。

「ごめんなさい、人見知りで」
「いえ、大丈夫です」

 あまり目を合わせないように視線をずらしたら、パンダが目に飛び込んできた。幼児用のイスやカップ。至る所にパンダ柄がある。そう言えば最初からずっとパンダのぬいぐるみを抱えたままだ。

「もしかして、拓翔君はパンダがすきなのですか?」
「はい、そうなんです。キャラクターものよりもパンダがすきみたいで」
「ぱんらしゃーしゅき」

 自分のすきなものが出てきたことでつい反応したのだろう。腕に抱いたパンダの頭の上から出したつぶらな瞳をキラキラとさせていて、自然と顔が緩む。
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