本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「そっかぁ。だから動物園に」
「あかたんぱんらしゃ」
「そうそう。赤ちゃんパンダさん、かわいかったわよね」

 思えば、彼らと最初に遭遇したのは動物園だった。

 そうだ。せっかく貴重な時間をいただいているのだから、悠長にパンダの話に花を咲かせている場合でない。
 持参した手土産を紙袋から出してテーブルに乗せた。

「こちら、つまらないものですがよかったら」

 箱の中身は有名店のフルーツがたっぷり入ったゼリーだ。小さなお子さんがいるのでアレルギーには気をつけたい。このゼリーには卵、乳、小麦粉が入っていない。数種類のフルーツゼリーが詰め合わせになっているので、どれか食べられるものがあればいいと思ったのだ。

「そんな、お気遣いいただかなくても」

 戸惑ったようにさやかさんは差し出されたものをなかなか受け取ってくれない。私はにこりと笑顔を作る。

「拓翔君、ゼリーはすき?」
「しゅき」
「よかった。じゃあ冷蔵庫で冷たくしてから食べてね」

 にこりと微笑みながら箱をもうひと押しすると、小さな手が伸びて来て「あい!」とつかんだ。

 キッチンの方から「ははっ」と笑う声がする。

「北山の勝ちだな。ありがたくいただこう、さやか」

 トレイにグラスを乗せて戻ってきた首席にそう言われ、さやかさんは申し訳なさそうに「ありがとうございます」とこちらに頭を下げた。
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