本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 首席がさやかさんの隣に腰を下ろした後、皆でそろってアイスティ飲んだ。拓翔君はオレンジジュースだ。思いのほか喉が渇いていたようで、アイスティが喉を滑り落ちて行くのが心地よい。茶葉の清涼感のある香りとほのかな渋みに口と心を潤される。

 そろそろかしら。

 グラスをテーブルに戻し、息を吸い込みながら背筋を伸ばす。

「あの――」
「ぱんらしゃ!」

 突如として立ち上がった拓翔君が、首席の服を引っ張った。

「ああ、そうだな。そろそろ行こうか」

 拓翔君を抱えて立ち上がった彼に、思わず目を丸くした。

「あの、どちらへ」
「ああ、これから近くのショッピングモールで子ども向けのイベントがあるんだ。そこに連れて行く約束をしていたから」

 思わず「え!」と声が出た。じゃあ私は本当にお邪魔ではないか。

「最初からイベントにはふたりで行く予定だったんだ。だから気にしないでいい」
「そうなんです、北山さん。実家からパンダのイベントがあるって聞いて、そしたら拓翔がどうしても行きたいと言うので」
「ぱぱ、ぱんらしゃー」

 ぷっくりと柔らかそうな頬を桃色にし、ビー玉のような瞳をキラキラとさせた拓翔君に、これは確かに連れて行ってあげたくなるわね、と思う。

「たまには男同士の時間も大事だよな、拓翔」
「な!」

 顔を見合わせて同じ方向に首をかしげたふたりの仕草がまったく同じで、ほほえましさに頬が緩む。

「というわけで、男同士の時間を楽しんでくるな」
「お願いしますね、櫂人さん」

 首席は部屋の隅にあったトートバッグを肩にかけると、拓翔君を抱いてあっという間に出かけて行ってしまった。
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