本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「ホテルに連絡しておいたんだ。このまま警察直行だろう。シンガポールの法律は日本より厳しい。簡単には帰国できないだろうが自業自得だな」

 彼は連れて行かれる男たちを見ながらそう口にする。

「きみもいくらこの国は治安がいいと言っても、女性ひとりならもっと気をつけ――」

 言いながら振り返った彼が言葉を止めた。気にはなったが顔を上げられない。ビキニを押さえながら震えのとまらない手を握りしめる。
 なんとか助けてもらったお礼だけでも言おうと、うつむいたまま口を開いたとき。

(きょう)……ちゃん?」

 身内か親しい友人からしか聞くことのない呼び方に、勢いよく顔を上げた。

 形のよい二重まぶたの双眸と目が合った。
 すうっと通った高い鼻梁とほどよい厚みの唇。耳のラインできちんと切りそろえられた短い黒髪が、全体的に爽やかな印象を与える。
 記憶の引き出しがカチリと音を立て開く。

圭吾(けいご)お兄ちゃん……?」

 半信半疑で口にしたら、彼の目がさらに大きく見開かれた。
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