本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 あっという間に時間が過ぎ、使った調理器具の片づけをしながら結婚生活のこぼれ話で盛り上がっていたところに、結城首席と拓翔君が戻ってきた。パンダのイラストの入った風船を嬉しそうに見せてくれた。

 窓から見える景色が西日に照らされている。立ち並ぶビルの下半分に影が被さり、街路樹も道路に長い影を作っている。

「私はそろそろ。今日は本当にありがとうございました」

 おいとまを切り出したら、ゆっくりしていったらいいのにと退出を惜しまれたが、それに甘えるわけにはいかない。

 日没にはまだ二時間くらい先で外は昼間のように明るいが、小さなお子さんのいる家庭だ。お風呂や食事で慌ただしくなるはずだ。

「夫と夕食の約束をしていますので」

 圭君から夕食は外で一緒に食べようと誘われていた。大体の時間と待ち合わせ場所だけ決めてある。今から行けばその時間より早く着けそうなので、途中化粧室に寄ってお化粧を直してから待ち合わせのカフェに行こうと思う。

 それなら自分たちはこのあとさやかさんの実家へ行くので、ついでに乗せて行こうかと誘ってもらったが、それも断った。これ以上はさすがに申し訳ない。それに、今は無性にひとりで歩きながら考えたいことがあった。

 じゃあせめてエントランスホールまで一緒に下りようと言われ、それならとうなずいた。
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