本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「カメラを向けられたことには気付かなかった?」
「今までに同じような経験は?」
「こんなことをする人物に心当たりは?」

 淡々と重ねられる問いに、首を横に振ることしかできない。

 彼が不意にこちらを向いた。真剣な瞳を真っすぐに向けられ、心臓が不穏に波打つ。顔を逸らすようにうつむいたら、頭にポンと手を乗せられた。

「あまり心配しすぎるな。このことは俺がちゃんと調べるから、香ちゃんは安心していいよ」

 にこりといつものように微笑んだ彼は、ポンポンと私の頭を軽く叩いて手を下ろした。

 責められることを覚悟していたため拍子抜けだ。けれどすぐ我に返った。相手から聞かれなかったからといってそのままにしていいわけではない。きちんと自分から説明しよう。万が一にも、後ろめたいことをしていたと誤解されるのは嫌だ。

「圭君、あの――」

 思い切って口を開いたところで、足元から電子音が聞こえてきた。彼のカバンの中からだ。彼はカバンからスマートフォンを取り出すと、画面を見て眉根を寄せた。

「ごめん、仕事の電話だ。長くなりそうだから先に食事しておいて」

 そう言い残して書斎へと行ってしまった。
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