本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「やっぱり、香ちゃんだ」

 驚いた。まさかこんな所で再会するなんて。
 私を助けてくれたのは、幼い頃よく面倒を見てくれた幼なじみのお兄ちゃんだった。

 彼の家と私の家とは子ども同士も母親同士も気が合ったため、家族ぐるみで仲良くしていた。
 中でも一番年上の圭吾お兄ちゃんは、六つ年下の私と遊んでくれるだけでなく勉強も教えてくれた。優しくて根気強いので、わからないところがあると五つ上の姉を飛ばしてわざわざ彼に持って行ったりもした。

 それは彼が高校二年生の頃まで続いていたが、大学受験があるから控えた方がいいとお母さんに言われて我慢するようになり、彼が大学進学と同時に家を出たため顔を合わせること自体年に一二度となった。こうして顔を合わせるのは、十数年ぶりだ。

「一緒に来た人は? おじさんやおばさんと? それとも友だち?」
「ううん、私ひとりよ」
「ひとりでここに泊まっているのか?」
「そう」

 途端、彼は形のよい眉をきゅっと寄せた。

「女の子がひとりで来るなんて、なにかあったらどうするんだ」
「女の子って……もう子どもじゃないのよ、ひとりで海外旅行くらいするわよ」
「子どもじゃないからこそ危険なこともあるんだ。現に危ない目にあっただろう」

 ぐっと言葉に詰まった。
 女ひとりでの海外旅行、私だって警戒心がまったくないわけじゃなかった。

 だけどここシンガポールは、アジアはもちろん、世界的に見ても治安のよい国で、その中でも五つ星をもらったこのホテルなら安全面で問題ないと考えたのだ。
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