本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 ひとり残された私は、空のお弁当箱を胸に抱いたまま立ち尽くす。

 圭君はどうしてあんなふうに平然としていられるの? 私がほかの男性とふたりきりで会っても嫌じゃないの? 相手が〝あの〟結城首席だとわかっていても?

 頭の中に次々と疑問符が湧いてくる。
 私なんて、彼がこれまで付き合ってきた相手にすら嫉妬してしまうのに。

 経験値の差? いや、そんなことじゃない。

「私に恋愛感情なんてないんだわ」

 口にした刹那、鋭いもので胸をひと突きされたかのような痛みに襲われた。

「うっ……」

 ふらりとよろめき、とっさにテーブルに手をつく。はずみで広がった写真の中に、幸せそうな笑みを浮かべた元上司がいた。

 一見すればその笑みは私に向けられているように思えるが、そうじゃない。これはさやかさんと拓翔君のことを話していたときのものだ。こんな蕩けるような笑顔は、首席が一番大事な人達にしか向けないものだと知っている。

「〝一番大事な人〟……か」

 お互いをそんなふうに思える相手と巡り合えるなんてうらやましい。少なくとも私は圭君のことをそう思っているけれど、彼の方は違う。
 彼が私のことを『かわいい』と言うのは、幼なじみで〝妹分〟だったときの名残だ。今大切に扱ってくれるのは妻になったからだ。

 結局、妹も妻も彼にとっては〝家族〟なのだ。〝恋人〟という段階を踏まず一足飛びに夫婦になった私は、彼の中の〝家族〟というカテゴリーから永遠に抜け出すことはないのかもしれない。

 気づいたら体が動いていた。
 
 抱きかかえるようにして持っていたお弁当箱をテーブルに置き、きびすを返して玄関へと向かった。
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