本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「そうだわ、圭君に連絡を……あっ」

 今さらながら自分が手ぶらだということに気がついた。
 外の空気を吸って落ち着いたらすぐに戻るつもりだったのだ。実際マンションを出てからまだ十分くらいしかたっていないはずだ。

 来た道を戻る? だけどどこをどうやって来たのか覚えていない。
 ひとまずこの住宅街の道を抜けて、幹線道路に出よう。そうすれば標識を見れば方向くらいはつかめるはずだ。

 直射日光はないとはいえ、三十度を超えた気温の中で歩き回っているので額に汗がにじむ。スマートフォンくらい持って出ればよかった。

 なにも考えずにかかとの高いパンプス履いて出てきたことを後悔しながら、ひたすら足を動かしているとやっと幹線道路に出た。

「あっ!」

 いつも使う地下鉄の入り口だ。どうやら通勤経路とは別の道でグルリと回って来たらしい。知った道に戻れたことに心底ホッとする。
 あの信号を渡ればいつもの道だと胸をなで下ろしたとき、前から歩いてくる人の顔に息をのんだ。

「あなたは……」
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