本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 仕事柄様々な国のことを他人(ひと)より知っているから大丈夫だと旅行先を選んだのに、まさかこんな目に遭うなんて思いも寄らなかった。

 ついさっきの出来事がフラッシュバックしそうになり、唇をきゅっと噛みしめる。今思い出したらだめだ。かぶりを振ったら、呆れたようにため息をつかれた。

「しかもそんな無防備な格好で……」

 下りていくのを感じて、かあっと顔が熱くなる。
 ビキニを押さえている手をぎゅっと強く握り締めると、彼は突然ラッシュガードを脱いで私の肩に掛けた。

「女性がひとりでこんな場所にいたら、よからぬことを考える(やつ)はいる。どんな国だろうとな」

 言いながらファスナーを上げて、その手を私の頭にポンっと手を置いた。

「でも間に合って本当によかった」

 打って変わった優しい声に目頭がぶわりと熱くなり、気づいたときには涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。

「わっ!」

 彼が慌てて手を離す。泣き止もうと思えば思うほど涙の量が増す。せめて顔を手で覆えればいいのだけれど、肝心な両手はラッシュガードの下でまだ必死にビキニを押さえている。

 下を向いて漏れそうになる嗚咽をのみ込んでいると、後頭部にそっと手を置かれた。そのまま軽く押され、トンと額が彼の胸に当たる。

「これは平気?」

 全然嫌じゃない。むしろほっとする。
 小さかった頃はよく彼に手をつないでもらっていた。あの頃と同じ温もりがそばにある。そのことに不思議なくらいに安堵した。
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