本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 広い胸に額をつけたまま小さくうなずくと、ポンポンっと頭をはたかれた。

「もう大丈夫だ。怖かったな」

 瞬間、自分の中でなにかが弾けた。

「こっ、怖かったぁ……っ」

 子どもみたいに声を上げてわんわんと泣きじゃくる。困らせてしまうとわかっているのに、一度決壊した涙腺はなかなか元に戻らない。どうしていいかわからないまま涙を流し続けていると、突然ひょいっと脇から抱え上げられた。いきなり高くなった視界に、一瞬で涙が引っ込む。
 彼はジャバジャバと水をかき分けながらプールサイドを目指した。

 荷物の有無を尋ねられ、ビーチチェアのところにサンダルとバスローブがあると話す。自分で歩けるからという私の訴えには反応せず、彼はビーチチェアの並ぶ通路を歩く。結局荷物のところまで行ってから私を下した。

 バスローブに袖を通し、ひもを結ぶ。そこへホテルの制服を着た壮年の男性がやって来た。その人はこのホテルの副支配人だと名乗り、詳しい話を聞かせてもらいたいので一緒に来てほしいと言った。

 正直一ミリも思い出したくないけれど、必要なことなら仕方がない。せめて着替えてからにしてもらえないと伝えた。不快感は濡れているせいだけじゃないが、一刻も早く嫌な記憶から離れたかった。
 副支配人は『では一時間後に客室へお伺いします』と言って去って行った。
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