本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 部屋まで送ってくれるというお兄ちゃんに甘えて、ホテルの中を移動する。
 せっかくの再会なのに、きっかけがきっかけだっただけにやけに気まずい。うつむいて黙々と歩いていると、彼が「そういえば」と口にする。

「最後に会ったのっていつだっけ」
「私が高一のお正月」

 なんとなくぶっきらぼうな言い方になったけれど、彼は気にした様子もなく感心したように「よく覚えているなぁ」と言う。

 大きくなるにつれ会う回数は減って行ったが、それでも近所だから親からのお使いでお邪魔したときに顔を合わせることもあった。
 彼が大学進学で実家を出てからは一年に一度会えるか会えないかで、内心それを寂しく思っていたこともあり、会えた日のことをよく覚えているのだ。

「それにしても香ちゃんが外交官かぁ」

 感慨深げに言われて引っかかる。六歳差のせいか、小さなころを知っているせいか、あるいはその両方か。彼はずっと私のことを小さな女の子だと思っている節がある。
 中学生の頃からそれは薄々感じていたけれど、さすがに成人して八年経った今、そんな扱いをされるのは不本意だ。
 けれどここで不機嫌になったり言い返したりする方がよほど子どもっぽい。どうにかして私はもう大人なのだと彼に教えたかった。

「そうなの。この四月に在外公館勤務から日本の本省に異動になったばかりよ。ニュージーランドとアメリカにそれぞれ三年ずついたわ」

 へえ、と感心したように相づちを打つ彼に、私は気を取り直す。
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