本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 うそ。すごく楽しかった。
 だけどそれは彼が一緒だったからだ。おそらくひとりだったら気後れして行かなかったと思う。
 ましてやあんなことがあった後だ。部屋から一歩も出ずに、残りの時間を部屋で悶々と過ごしながら、ひとりでここに来たことを後悔していたことだろう。
 そもそもあれ以上のことが起こらなかったのは、お兄ちゃんのおかげなのだ。

 持ったままだったグラスを勢いよくあおり、テーブルの上にカタンと置く。

「わかった、それでいいわ。やりましょう」

 交互に二回ずつ投げることにした。

 すぐに結果が出た。
 二対二で同点だ。

 五回目で決着をつけることになり、彼が投げて私が表か裏を決めることにした。

 ピンと弾かれたコインが、くるくると回転しながらごつごつした手の甲に着地する。同時に、反対の手がそれを押さえた。

「Head or tail ?」
「Head !(表)」

 ゆっくりと上の手が外されて見えたのは――。

「裏だ」
「ええー……」

 やった、とガッツポーズをする彼の隣で、がっくりとうなだれる。

「これで依頼料の件はなしだぞ」
「……わかったわよ」

 最後の最後で負けたのが悔しくて、缶に残っているビールをそのままごくごくと一気にあおる。
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