本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 黙っていると、彼は「はあ」と思いきり大きな息をついて上体を起こした。落ちているTシャツを拾って袖を通す姿に、続きがないことを悟った。

 思った通りだ。彼は〝お試し〟なんて軽い気持ちで処女に手を出すような人ではない。私のことを経験豊富だと思っていたのだ。

 胸がズキズキと痛んで、さっきまでとは違う涙が込み上げてくる。きゅっと下唇を噛みしめると、パサリとなにかが掛けられた。彼のジャケットだ。そういえば、彼が座るときにソファーの背に掛けていた。
 のそのそと起き上がって袖を通したら、再度深いため息をつかれる。

 そんなに処女はだめだったの? たしかに言わなかったことは問題があるかもしれないけれど、二度も大きなため息をつかれるほどのことだろうか。処女だろうとなかろうと、やることは一緒なのに。
 なんだか無性にむかむかしてきた。

「そっちだって言わなかったじゃない」

 思いのほか低い声が出た。
< 52 / 154 >

この作品をシェア

pagetop