本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 男の胸が密着している背中が気持ち悪くてたまらない。吐きそうだ。足はがくがくと震え、全身鳥肌が立っている。

 どうしたらいいの……!
 ビキニを腕で押さえながら手を握りしめた。

 どんな局面でも思考を止めたらだめだ。冷静にならなければ。今にも固まりそうな思考回路を必死に動かす。
 男たちは夜景を見ながら昼間に行った場所の話をし始めた。

「マーライオンってどのへんだっけ?」
「あのへんじゃなかったか?」

 モヒカン男が前方を指さした。片腕が外れた今がチャンスと思ったが、先回りしたようにもう片方の腕が強く締まる。恐怖と気持ち悪さで眩暈がした。

 誰か……!
 心の叫びは誰にも届かない。
 水中でどんなことが行われているかなんてただでさえわからないのに、プールの中にいる人たちは、夜景ばかりを見てこちらには見向きもしない。プールサイドからは日が落ちて薄暗くなったせいで見えていないのかもしれない。
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