君のブレスが切れるまで―on a rainyday remember love―
 世の中はお金があれば不自由のない暮らしはできる。お金はとても便利で、母親に変わって乳をくれる女性すらも雇うことができる。
 乳母、ベビーシッター、家庭教師など。だが、人の心まではそう簡単に動かせはしない。
 命を削り、魂を削り、お金のためなら、と我慢してやることは誰もが経験していることだろう。生きていくにはお金が必要だ。しかし、顔面に貼り付けた偽りの仮面の奥で、赤い眼を持った私への恐怖心は誰も隠しきれていなかった。


 きっと、それが心の動かせない証。
 乳を吸うときも、歳を重ねて勉学で教えを請うときも、私は両親だけではなく彼らにさえ疎まれていた。
 赤ん坊の頃は泣いていたはずなのに、いつしか泣くことを忘れ、笑うことも知らない。何に対しても怒りすら感じず、心の中には虚無だけが広がっていった。ずっと世話を続けてくれていた総一朗ですら、私に恐怖感を持っていたのだから。
 だからと言って、この赤い眼に恨みがあるわけではない。仮にこの眼が存在しなかったとしても、私を取り巻く世界に変わりはなかったのだから。
 それどころか逆に感謝している。この眼には人の域を越える特別な能力が備わっていたから。


 それは人が何を感じ、何を考え、何を思っているのかがわかる能力。
 私は普通の人間とは違う。その能力に気がついたのはもう少し年齢が上がって、不覚にも両親に聞いてしまってからだ。
 日常で私が認識していたものは非現実的な行い。そう、人は会話もせずして他人から意識を読み取ることなど絶対に不可能なのだ。


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