君のブレスが切れるまで―on a rainyday remember love―
「俺はもう小学生じゃ――」
「そのようね、新一年生。随分迷子になってここへ来たようだけど、今日は卒業式。入学式はまだ先よ」
「う、うっさいな! そんなことわかってるって! ちょっと下見に来たんだ」
「入学式の日に迷子にならないように?」
「そーだよ! 悪いか!」


 入り組んでいたり、わかりにくい場所にある学校ではないのだけど、迷子になるということは相当な方向音痴か。しかし、予習として自分の欠点を潰しておくのはいいことね。
 言葉の使い方がなっていない彼に、私は首を左右に振ると少年の隣を通り過ぎる。


「悪いかどうかと聞かれれば悪いわね。新一年生といえども、まだ部外者。せいぜい中学校の七不思議に捕まらないようにしておきなさい」
「な、七不思議って……?」
「さぁ? だから不思議なのでしょう」


 呆然と立ち尽くす少年を背に、卒業証書の筒を持ち替えて私は一人桜並木を去っていく。せめて恐怖を与えないように冗談を言ってみたのだけど、上手く言えたかしらね?


「っ……こ、こぇぇ……なんなんだあの女……」


 背中に突き刺さる無常の言葉。
 どうやら上手くできていなかったみたいね。精進はするつもりだけど、この調子でできるのかしら。


 そして時は流れ――


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