契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 いくら何でも馬鹿げた挑発に乗る気はない。
 すげなく断ってしまえば、問題解決だ。
 そう東雲は楽観視していたものの、花蓮の執拗さは相当なものだった。
 本気で自分と東雲が結ばれると信じて疑っていない。相手の事情や気持ちはお構いなしに、欲しいものを手に入れる貪欲さは、ある意味尊敬に値する。
 けれど好きか嫌いかで言えば、圧倒的に後者だった。
 端的に言って、東雲の好みからは大幅に外れているのだ。

 ――僕の好みは、くるくる表情が変わり誠実で心根の優しい、努力家だ。

 外見的にも、派手であったり化粧が濃かったり、過剰にヒラヒラフワフワしているのは苦手である。
 それよりも清潔感を重視したい。
 媚びを含んだ眼差しにはうんざりしている。どうせなら真摯な瞳に見つめられたい。
 もしくは恥ずかしげに逸らされる視線を、自分に向けたいと思った。
 だからこそいくら花蓮に誘惑されても、露ほどの興味も持てず、煩わしいなとげんなりしただけ。
 どうやって彼女を穏便に遠ざけられるか――その件で頭はいっぱいだった。よもやそんな場面を希実に見られているなんて、夢にも思わなかったのだ。

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