契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 しかし今更撤回する気はないのだから、最初からこの結果になるのを望んでいたと指摘されれば、反論の余地はなかった。

 ――僕も大概だな……こんなに自分自身がコントロール不能になったのは、初めてだ。

 少々揶揄って満足したら、希実との縁は終わりだと思っていた。
 それなのに、現実は着々と彼女の逃げ道を塞いでいる。
 爆速で囲い込んで、もはや逃がしてやるつもりは微塵もなくなっていた。
 ただの興味本位はいつしか、重く面倒な執着心へすり替わっている。
 このまま希実が戸惑っている間に、既成事実を作ってしまおう。
 はっと気づいた時にはもう、居心地のいい巣から出たくないと思わせてしまえばいい。

「……ふふ、逃げられると余計に追いたくなるな」

 夜の車内で一人悪辣に笑う男の姿を目撃する者は、どこにもいなかった。
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