契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 しかし後には引けない。
 湯呑を並べたお盆を強く持ち、希実は気合を入れ直した。

「……お、おまたせ……」

 居間に戻れば、妙な空気が張り詰めていた。
 漲る緊張感やら、浮かれた雰囲気、噛み合わない何かが、家全体を重苦しいものにしている。
 平然と普段通りの東雲の方が異質に感じられた。

 ――どんな胆力しているの……

「ありがとうございます、希実さん。いただきます」

 こちらが手渡した湯呑をにこやかに受け取り、彼は優雅に口をつけた。
 そんな仕草も神々しくて、ますますこの家での『異質感』が激増する。
 既に眼をハートにした母は、口に手を当てて感嘆の息を漏らしていた。
 父は、相変わらず魂が抜けた様子で置物状態。
< 117 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop