契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 妹は当惑の視線を希実に向けてきた。その双眸には、言葉より雄弁に『やっぱお姉ちゃん騙されているって』と書かれている。
 全く失礼な妹だ。
 だが立腹できないのは、騙されてはいないけれど、この結婚が本物ではないからに他ならなかった。
 家族を、騙している。
 そんな後ろめたさに堂々としていられない。
 気弱な希実は罪悪感に早くも負けてしまいそうになっていた。

「――まさか希実がこんなに綺麗な方を連れてくるとは思っていませんでしたよ。この子は大人しいでしょう。きっと自分と似ている物静かで内気な男性を選ぶと思っていたんですがねぇ!」
「……いずれ会社を継ぐつもりなのかね」

 ようやく話に加われる程度精神的に回復したのか、父が咳払いして口を挟んだ。
 とは言えまだ委縮しており、視線は落ち着かないまま。
 父の挙動不審さに怯むことなく、東雲は上品な笑みを深めた。

「はい。そのつもりで頑張っています。希実さんに苦労をかけないよう努力します」
「まぁ……では希実はいずれ社長夫人に……!」
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