契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「お、お母さん、気が早いしそんなことはまだ仮定の話で……!」

 先走って近所で吹聴されては厄介だ。
 自分たちはいずれ離婚予定。あくまでも仮初であり、偽の関係なのだ。
 もし婚姻期間が思いの外長引いたとしても――希実は社長夫人が務まる器ではないと、自分が一番分かっていた。
 偽りに胡坐をかいて、そんな重責は担えない。
 少なくとも東雲が会社を継ぐまでには、きちんと身を引くつもりだった。

「あんたったら、安斎さんを捕まえるなんて、すごいじゃないの」

 ――捕まったのは、どちらかと言うと私です、お母さん……

「お母さん、お願いだから下品な言い回しはやめて……」
「ま、母親に向かって何て言い草なの。ごめんなさいねぇ、安斎さん。この子ったら真面目過ぎて融通が効かないところがあるでしょう」

 後半を東雲に語り掛け、母は大仰に肩を竦めた。

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