契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 いつものように聞き流してしまえばいい。何を言っても、どうせ考え方の違いは埋められない。
 ここは穏便にやり過ごすべきだ。希実はこの場の空気を換えるべく、ぐっと拳を握りしめた。

「希実、これからは彼をきちんと支えてやるんだぞ?」

 父親に背中を叩かれ、希実は強引に笑顔を作る。それが精一杯。返事は上手くできなかった。

「……食事にしよう? お母さん色々用意してくれたんだよね」
「ええ、勿論。朝から張り切っちゃったわ」

 母を促して立ち上がりかける。
 けれどその時、東雲が希実の手に彼の手を重ねてきた。

「――希実さんは傍にいてくれるだけで、僕にとっては価値のある女性です。彼女の誠実さと心の美しさが、癒しと力になります。ですから――これ以上何かしてもらおうとは思っていません。むしろ僕が希実さんのために何ができるか模索中です」

 決して大きな声ではない。それなのに、至極明瞭に響く。
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